九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 52
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車いすにおけるズレ度と車いす駆動との関係
健常学生を対象として
*押川 武志小浦 誠吾小川 敬之岩谷 清一
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抄録

【はじめに】
車いす上で起こるずれは,痛みの原因や褥瘡の発生,さらには転落などにつながり,シーティングで問題視されている.そこで日本シーティングコンサルタント協会(以下,JSSC)では「ズレ度」を評価する基準を設けた.これはシーティングの効果検証や再評価時の指標に繋がるものであるが,「ズレ度」の増減が身体機能や精神機能に与える影響についての基準はまだ明確にされていないのが現状である.
【目的】
今回,健常学生(以下,学生)に協力を依頼し,ズレ度の増加が上肢機能にどのように影響するのかを車いす20m走行(上肢のみの走行)の実施時間の比較により,ズレ度と車いす駆動に与える影響を明確にすることを目的とした.
【対象】
 本学所属の学生30名(男性12名,女性18名)平均年齢19.18±0.46歳に対して実施した.なお,倫理的配慮として対象者全員に研究の趣旨および説明を十分に行い,同意書に署名を得たうえで本研究を実施した.
【方法】
車いすの設定は,JSSCの基準に基づき対象者個人の身体状況にあわせて設定した.使用した車椅子はモジュラー型車いす(レボネクスト:ラックヘルスケア_(株)_)を用いた.前記の設定をすべて満たした上で,「ズレ度なし」,「ズレ度5%」,「ズレ度10」「ズレ度15%」「ズレ度20%」のそれぞれのズレ度において20mの車いす駆動し所要時間を計測した.計測にあたり,学習効果の影響を防ぐために,実施する順番をズレ度なしから開始するグループ,ズレ度20%から開始するグループの人数が同じになるように行った.
統計処理は,Stat View5.0を用い,ズレ度なしとズレ度5%から20%の比較を行った.なお,有意水準は5%未満とした.
【結果・考察】
 ズレ度なしとの比較において,ズレ度15%・20%において所要時間に有意差が認められた.今回の研究では,ズレ度15%以上になると車いす駆動において支障をきたすものであることが明らかとなった.
 廣瀬らは両手でハンドリムを操作する手法を,_丸1_手をハンドリムまたはタイヤの11時のところをつまみ,_丸2_前方の2時のところまで駆動し,_丸3_手を11時のところに戻す3相に分類している.しかし,ズレ度の増加により肩関節伸展方向の制限が著明となること,さらにバックサポートが肩甲帯の可動性を制限することも原因と考えられる.
 今回の対象者は健常学生であり,対象者によっては,今回のズレ度15%よりも早い段階から影響がでることが予想されるが,ズレ度が車いす駆動に与える影響の1つの指標になり得ると考えられる.
 今後,対象者を増やし信憑性を高めると共に,細かいズレ度の検証が必要であり,さらに身長や車いすの種類による分析,ズレ度と簡易上肢機能検査(STEF)との関係,ズレ度と褥瘡との関係についても検証していく予定である.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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