九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 72
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在宅生活を維持しつつ全治をなした多発褥創発症事例への取り組み
褥瘡発生状況に応じ他部門と連携し、在宅訪問、対応の統一化を続けた一例
*川田 隆士
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キーワード: 褥創治療, 在宅訪問, 連携
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抄録

【はじめに】
在宅での褥瘡発生は症候と介護事情から治療基準を満たせない事が少なくない。今回このような背景から多発褥瘡を発症した事例に対しOTを中核に在宅生活を維持しつつ、全治をなした取り組みを報告する
本報告において当施設倫理委員会及び対象者とその家族から承諾を得た
【症例】
85歳女性、やせ型(140cm34kg)アルツハイマー型重度認知症(パーキンソン症候)。通所毎日利用。介護度5。市販ウレタンマット併用柵なしベッド。食事は前滑り椅子座位にて中等介助。他ADL全介助。家族は窒息の恐れから2炊刻み少食対応。食事以外臥床。体位交換なし。H21.5月5日仙骨2度褥瘡発生
【アプローチと経過】
8日在宅訪問(以下訪問)。体位交換は食事、家業、疲労等から就寝時1回が限度。臥床時45度側臥位、着座は90度ポジション座椅子設定にて創無圧化を確認し指導。通所対応統一(以下統一)。かかりつけ医了承を得て通所にてラップ療法、亜鉛サプリメント15~30mg摂取開始。13日治癒
6月5日再発。訪問。体位交換不足の為、同内容再指導。10日尿路感染、食思低下、やせ進行。両大転子1度、左第1指2度褥瘡発生。傾き座位。モジュール車椅子及びジェルクッション使用、傾き防止。開放靴対応。両大転子、足指除圧確保。13日仙骨再発創治癒
17日右大転子2度へ進行。訪問。自動体位変換エアマット(以下CRADE)導入検討。しかし、支点となる仙骨再生上皮は脆弱かつ深部は未熟な肉芽組織であり、再発・重度化のリスクが高い事。落下の不安等から見送り6cm厚低反発ベッドマット貸与、重ねて使用。体位交換は右大転子創と左方寄りに仙骨再生上皮を有する事から帰宅後右30度、就寝時左45度側臥位を指導。統一。7月7日全箇所治癒。食思改善。
8月5~16日発汗多量。症候進行。両大転子・左第1指内側2度褥瘡再発。右外果部、腸骨部1~2度褥瘡発生したが、仙骨再生上皮は強固で深部の肉芽も瘢痕組織化した治癒形態へ変化していた為、CRADE導入。15分毎に体側角度15度設定。下肢外側創無圧化を確認。オムツ交換しにくいという意見から低圧設定より開始。200kcalムースを捕食追加。24日仙骨2浅度褥瘡再発した為、超低圧切り替え。9月1日全治。
【考察】
多発する褥瘡ほど処置に限らず、頻回な除圧と栄養確保等、組織耐久性の早期解決が成されるべきであるが、在宅での褥瘡発生は施設対応と異なり、その背景が観察しにくく、本症例のように症候と介護事情から治療基準を満たせないのが現状である。症例が在宅生活を維持しつつ、全治に至った要因はOTを中核に創の高度深達化前に早期在宅訪問にて家族と情報共有できた事。その中で創箇所と介護事情に応じて除圧肢位の変更、除圧用具及び補助栄養の適宜導入・指導の機会を得た事。これに追随して他部門と連携し、対応の統一化を確保できた事が考えられる

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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