九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 73
会議情報

進行性疾患をもつ症例の意欲向上を目指して
~買い物を楽しんで続けるために~
*村上  千佳北迫 郁代川嶋 美里
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】
進行性疾患症例はADLが低下する中で生きる意欲も低下することが多いとされる。今回、脊髄小脳変性症(以下SCD)症例の訪問リハを経験し、Needである「買い物」を達成することで意欲向上・活動性の維持を図ることが出来た。進行に伴う外出手段の変更と訪問リハ、他職種との連携について検討したので、本人・家族了承及び当院の倫理委員会より承認を受け報告する。
【症例】
80代、女性。疾患名はSCD、糖尿病。障害を持つ息子と2人暮らし。他人に迷惑をかけたくない、気丈な性格。ほぼ全てのADLに介助を要し、臥床傾向。しかし、買い物時は意欲的な動作や笑顔が認められる。
【経過】
H16年SCD発症。屋外歩行時に転倒が見られるようになり、電動四輪車にて1人で外出を行っていたが、操作法・安全性獲得について訪問リハへ依頼がある。
1期:電動四輪車使用の継続(H18.9~)
自宅から買い物先までのルート確認、買い物先の動線の確認・交渉を行い、安全に1人で買い物出来る方法について他職種を交え検討した。連携ノートを作成。
2期:電動四輪車から電動車椅子へ(H19.5~)
1人ではSCDの進行から、操作判断に危険が生じる。会議の結果、前腕での操作であるスティック式の電動車椅子を導入、ヘルパーの見守りにて買い物へ行く事にした。
3期:スティック式操作からボール式操作へ(H19.11~)
SCDは進行し、前腕での操作に支障がみられ、ボール式へと変更。福祉用具業者と連携し、アームレストにクッションを作成、前腕が安定することで失調症状は減少、手指での安定した操作が可能となった。買い物時、自分で商品を選べるように、座位リーチ動作の訓練を行った。
4期:電動車椅子から介助用車椅子へ(H20.10~)
SCDの進行と共に失調症状は増大し、電動車椅子の操作困難となってきたため、本人の意向やヘルパーからの情報を統合し、介助用車椅子の導入を行った。導入時は買い物に同行し、介助方法や安全なルートを検討した。玄関部は手すりと介助にて段差昇降した。
5期:介助用車椅子にスロープの導入(H21.6~)
介助での段差昇降が難しくなり、玄関部へスロープを導入。他職種と共に統一した介助方法を検討・実施した。
【考察・まとめ】
症例にとって「買い物」とは障害を忘れる唯一の楽しみの時間、母としての残された役割など様々な意味を持っている。症例自身で買い物を行う事で、糖尿病を持つ症例にとって、食事量と食事内容の安定という効果も得られた。買い物に行きたいというNeedから、目的を持ったプログラムの作成・実施を行う事が出来、症例は意欲を持って取り組まれている。今回ADL低下がみられる中でも、意欲の向上を図る事が出来た症例を経験した。進行性疾患症例に対する訪問リハの役割は、残存機能を最大限活用し、全職種と連携を図り、意欲向上を支援していく事が重要であると再認識出来た。

著者関連情報
© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top