九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 76
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維持期胸部脊髄症の病態把握と予後予測
*石掛 陽介上田 直樹太田 直吉
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抄録

【はじめに】
 今回、胸部脊髄症を呈し2度の後方除圧固定術を受けた症例を経験した。本症例の身体機能を廃用か脊髄症によるものかを分析し、社会的背景を加味した上で予後予測をたて、短時間での集中的なリハビリテーションを行った。その結果、入所から3ヶ月で在宅復帰にいたることができたためここに報告する。
【症例紹介】
 90歳代の男性。平成20年5月胸部脊髄症(Th11-12ヘルニア)に対し後方除圧固定術(Th10-L1)を施行。術後リハにて杖歩行可能な状態まで改善していた。平成21年6月頃より両下肢の痺れが強くなり歩行困難となった。同年8月14日にTh9-10ヘルニアに対し後方除圧固定術(Th8-L1)を施行。同年9月2日には回復期リハビリテーション病院に転院されたが、本人の家に帰りたいとの希望が強くリハ継続のため同年12月1日に当施設入所の運びとなった。
 もともと妻との二人暮らしであったが、妻も高齢のため身の回りのことが自分で行えるようになれば、在宅復帰可能とのことであった。
【理学療法評価】
 寝返り、起き上がり、坐位は自立。立位は重心が過度に前方偏位しており上肢の支持なしでは保持困難であった。歩行は平行棒内で軽介助レベルであったが、重心の前方偏位と左下肢が接地時に内転位に入りやすいため前方や側方への動揺が著明であった。車椅子への移乗は監視で可能であったが、立位バランス不良のためトイレ動作では下衣の着脱に介助を要していた。
【アプローチと経過】
 主に廃用による体幹や股関節・膝関節周囲の筋力低下に対する筋力訓練や立位バランス訓練を中心に行うことで筋力・立位バランスが向上し歩行も固定式歩行器を使用し監視レベルで可能となった。
 トイレでの動作に関しても立位の安定性が向上したことにより監視レベルで下衣の着脱が行えるようになった。
【考察】
 医療機関に対して、老人保健施設における一人当たりのリハ提供時間は限られてくる。その中で効果を挙げ在宅復帰を成し遂げるにはしっかりと医学的評価をし、リハビリテーションを提供しなければならない。本症例は、仙髄レベルの脊髄症状が主に認められていた。そのため麻痺筋より回復の早い廃用性筋力低下を起こした腰髄レベル以上の筋にターゲットを定め筋力訓練を行った。その結果、短期集中リハの期間である3ヵ月で立位の安定性、恐怖心の改善、さら歩行器歩行の獲得にまで至ったと考えられる。今回の症例を通して、正確な病態把握と社会的背景の評価から適切な予後予測を行ったうえでリハをすすめることの大切さを再認識することができた。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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