九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 83
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三味線演奏における上肢運動特性の調査
日常生活動作と三味線演奏における必要角度の違いを知る
*片山 智裕大川 尊規吉原 愛宮本 洋
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キーワード: 三味線演奏, 上肢, 運動特性
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抄録

【はじめに】
橈骨遠位端骨折の術後3ヶ月経過をした症例が,日常生活動作(以下ADL)は自立していたが,仕事である三味線演奏に支障をきたした.この事からADLと三味線演奏では必要な手関節角度が異なるのではないかと考えた.
そこで,三味線演奏においてどのような上肢の運動特性があるか調査したため考察を加え以下に報告する.尚,研究および発表において,対象者への説明と同意を得ている.
【対象および方法】
対象は,三味線講師と教室に通う生徒5名(男性1名,女性4名,平均年齢65歳),全例右利きで,上肢の疼痛が無い者とした.
測定は,関節可動域をゴニオメーターを用いて日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の測定方法に基づいて行った.
方法では,同じ撥(ばち)と三味線を使用し,糸を弾く側を右手,押さえる側を左手とした.
演奏姿勢は,正座位をとり,二の糸(中間の糸)の糸巻きが左耳の延長線上にくる位置で三味線を構える.演奏中,肩・肘・前腕・手関節の各肢位において最も可動域が必要とされる肢位で動作を止めてもらい,その角度を最大角度として測定し,それぞれ平均値を算出した.
【結果】
撥で糸を弾く側の右上肢では,肩関節は、屈曲19°±18°,外転43°±7°,内旋10°±10°,外旋0°±7°,肘関節は、屈曲92°±3°,伸転-84°±5°,前腕は、回内15°±19°,回外-9°±12°.手関節は、掌屈60°±11°,背屈-53°±10°,橈屈6°±5°,尺屈8°±3°.
糸を押さえる側の左上肢では,肩関節は、屈曲11°±12°,外転45°±13°,内旋43°±10°外旋22°±8°,肘関節屈曲104°±2°,伸転-88°±4°,前腕回内2°±11°,回外67°±19°,手関節掌屈7°±24°,背屈29°±9°,橈屈-3°±12°,尺屈-1°±13°.
【考察】
右上肢では,三味線を右前腕近位と右大腿部で押さえ,肘と肩は安定した位置で,手関節掌屈の動きにより撥を糸に近づけ,手関節と前腕回旋の複合運動で演奏する.この時,手関節掌屈は60°±11°と大きな可動域を必要とし,この肢位を保持しながら,わずかな回内・背屈・尺屈動作で糸を弾く.
一方,左上肢では肩関節と前腕の動きにより棹(さお)を移動し,糸を押さえる手指が大きな動きを求められ,手関節は微調整を行う程度である.
これらよりkey motionとなるのは右上肢における手関節掌屈であると考える.
【まとめ】
日常生活動作においては背屈動作が優先され,掌屈の大きな可動性はほとんど必要とされないと報告がある.また,背屈転位型の橈骨遠位端骨折では,一般的に掌屈制限が残存するとされており,これらのことが三味線演奏を困難にしていたと考える.
今回は一連の動作を静止させた肢位で角度を測定しており,演奏は複合運動により行われているため,今回の結果を演奏に必要な角度と言及は出来ないが,三味線演奏における運動特性は確認できたのではないかと考える.三味線演奏において最も必要とされる関節の可動性は手関節掌屈である.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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