九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 133
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胸部大血管術後患者に対するリハビリテーションの帰結について
*矢木 健太郎緒方 孝飛永 浩一朗泉 清徳井手 昇渡邉 哲也井手 睦
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抄録

【はじめに】
胸部大血管術後の患者は、腹部大血管術後の患者に比べリハビリテーション(以下リハビリ)が遅延するといった報告が多い。本研究の目的は、胸部と腹部の大血管術後におけるリハビリの進行に差があるのか、特に胸部大血管術後患者の合併症などの存在がリハビリ進行に影響するのかを検討することにある。
【対象と方法】
対象者は2005年から2009年の期間に当院で大血管手術をうけ、リハビリが処方された胸部39例、腹部41例計80例の患者とした。診療録を基に後方視的に基礎情報、合併症、リハビリ進行度としてA術日からリハビリ開始までの日数、Bリハビリ開始日からベッドアップ練習開始までの日数、C坐位練習までの日数、D立位までの日数、E歩行までの日数、そしてF在院日数、帰結として最終移動能力を調査し、胸部大血管手術後と腹部大血管手術後との比較を行った。さらに胸部大動脈手術後において歩行自立に至らなかった因子について検討した。年齢およびリハビリ進行度の比較はMann-Whitney U検定を用い、男女比や帰結に対する比較はχ2検定を用いた。有意水準は5%未満とした。なお個人情報の取り扱いなど倫理面は当院の規定に従った。
【結果】
リハビリ進行度は、腹部大血管術後においてA3.2±2.8日、B1.1±1.3日、C2.1±3.8日、D3.2±7.8日、E5.0±12.4日、F28.3±22.6日、胸部大血管術後ではA4.4±1.6日、B4.8±6.2日、C6.7±7.5日、D8.8±10.7日、E8.8±8.5日、F48.7±38.4日であり有意に胸部大血管術後が遅延していた。胸部大血管術後のリハビリ進行度は緊急手術の有無や術式、手術中出血量、年齢などでは差はなかった。脳梗塞や肺炎、心不全などの合併症を発症しなかった患者17名はA3.0±2.1日、B2.1±2.7日、C2.9±3.0日、D3.2±2.9日、E5.1±3.6日、F34.7±13.1日ですべて歩行自立で帰結した。これに対し、合併した患者22名ではA3.2±2.0日、B7.3±7.4日、C10.2±8.7日、D13.8±12.7日、E13.4±10.5日、F59.5±47.6日と有意にリハビリ進行度は遅延し、急性期リハビリ終了時に歩行自立に至ったのは5名、非自立が14名(内4名は元々ADL介助レベル)、死亡が3名であった。合併症を発症した22名中9名は回復期リハビリ病棟に移り最終的には5名が歩行自立、4名が歩行監視レベル(高次脳機能障害が残存したため)で帰結した。回復期を含めると、合併症を発症しても死亡を除く術前ADLが自立していた患者15名中10名66.7%が歩行自立して帰結できることがわかった。
【考察】
胸部大動脈術は脳梗塞などの合併症のリスクが腹部大動脈術後に比べて高く、リハビリ進行度は遅延している。胸部大血管術後のリハビリで見ていくと、合併症の有無が有意にリハビリの進行度や最終的な歩行自立度に影響を及ぼしている。胸部大血管術後に合併症を発症すると急性期リハビリにおいて7割以上が歩行自立に至っていなかった。しかし回復期などのリハビリを継続した症例においては、合併症を発症したとしても7割弱が歩行自立して帰結できることがわかった。今回の調査で胸部大血管術後合併症を有した患者のADL向上のために、急性期から回復期への継続的なリハビリの重要性が示された。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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