九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 156
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慢性期統合失調症患者を対象にした集団作業療法
集団凝集性を高めたハンドベル活動の分析
*竹島 祐樹小林  真司西本 桂大井上 綾栗田 輝久
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抄録

【はじめに】
 今回、慢性期の統合失調症患者を対象に対人交流の拡大を目的にハンドベルを用いた集団作業療法を行った。同じメンバーで同様の目的で行う他のグループ活動と比べて集団凝集性が高かった。1年間を通してのハンドベルの活動分析と脳機能からの考察を加え報告する。 【対象と方法】
 対象は慢性期の統合失調症患者14名(男性8名、女性6名)、平均年齢53.5歳(±11.6)、平均在院日数は7.3年(±6.5)である。対象患者の中には、幻聴などの陽性症状が残存している患者が5名含まれている。  上記の対象患者を週に1回、クローズドグループで実施した。評価には、集団評価表(山根参考)と簡易精神症状評価尺度(以下BPRS)を用いて行った。
【結果】
 集団評価では、集団凝集性の向上、課題に対する取り組み、対人交流技能において向上が認められた。集団内個人評価では、ハンドベル活動に対する意欲、注意、集中力に向上が認められた対象患者が10名、BPRSにおいて幻覚による行動で改善がみられた対象患者が3名、情動の平板化で改善がみられた対象患者が3名であった。
【考察】
 ハンドベルは、曲を演奏するにあたり一人一人が、異なる音を受け持つため、全員参加と互いの存在と役割を感じとらないと成り立たない。また、他の楽器に比べ、簡単に綺麗な音をだすことができ、誰もが容易に演奏できることが、心地よさを感じ失敗への恐れを払拭し、対象患者に対して安心をもたらす。そして、個人の役割が明確なこと、一つの曲を皆で演奏するという集団での目標が明確なことが他の集団作業療法との違いであり、能動性を高め、集団凝集性を高める一因になると考えられる。
ハンドベルでの音色は、聴覚神経を通し、初めに側頭葉のヘシュル回に到達する。ヘシュル回に至った情報は聴覚連合野や島回にネットワークされ、さらには記憶の海馬や、情動の扁桃体、帯状回へとネットワークされる。対象患者に快の刺激となるハンドベルの曲、音色は、前部帯状回が活性化され前頭前野の働きをも亢進する。そのために対象となる統合失調症患者に対しても、意欲や自発性、注意、集中力が向上したと考えている。また、前頭前野が他の領域の脳とネットワークして総合的に連動して働くことによって、対象患者にとって自己を知る手がかりになったと考える。ハンドベルを振るという動作により、聴覚や触覚、振動覚、位置覚、視覚の情報と運動の情報との融合によってセルフモニタリングの機能が働き、他者とのつながり、集団としての協調性、社会性が培われ、集団凝集性を高めたと思われる。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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