九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 165
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歩行時一側上肢の振り過大と反対側距腿関節固定との関連性
テーピング固定条件と自由歩行の比較から
*吉塚 久記中村 朋博吉住 浩平
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抄録

【目的】
 臨床では一側上肢の過剰な振りを伴う歩容を多く経験する。反対側Initial Contact(以下IC)にて前方への上肢の振りはピークに達するが、臨床上その過大は反対側下肢推進力低下の代償的戦略に基づいたものが多い印象を受ける。しかし、歩行時の上肢に関する研究は少ない。そこで、本研究では一側の距腿関節固定が反対側上肢の振りに影響し得るのかを検討し、上肢の振りが過大な症例における歩行分析の一助とすることを目的とした。
【対象及び方法】
 対象はヘルシンキ宣言に従って研究要旨に同意を得た整形外科的及び神経学的既往のない健常女性10名(平均年齢31.2±4.1歳、身長160.3±4.2cm、体重50.8±4.2kg、利き手右側)。被検者の非利き手側肩峰及び尺骨茎状突起にマーカを貼付し、無意識下の自由歩行(条件1)、距腿関節底背屈0°位テーピング固定での歩行(条件2)の2条件における10m歩行矢状面を各々デジタルカメラ(SONY社製)にて撮影した。解析は総計309場面のICを静止画に編集後、ImageJ 1.42q(アメリカ国立衛生研究所開発)を用いて、非利き手側上肢の角度を算出した。その際、基本軸は体幹長軸、移動軸は肩峰と尺骨茎状突起の結線に規定した。統計学的解析にはt検定を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】
 平均歩行速度は85.8±10.0m/min(条件1)、79.1±9.5m/min(条件2)であり、自由歩行時が有意に速かった。上肢前方への振りは30.2±10.6°(条件1)、32.8±11.2°(条件2)、後方への振りは24.8±8.2°(条件1)、27.9±9.0°(条件2)となり、前方・後方とも固定条件歩行時の方が有意に大きな値を示した。
【考察】
 先行研究にて歩行速度増加は上肢の全運動範囲を拡大するとされているが、今回固定条件にて歩行速度が減速したにも関わらず、前後方向とも有意に上肢の角度増大を認めた。その結果から、一側距腿関節固定に伴った推進力低下を補う代償的戦略として、反対側上肢の振りが拡大したものと解釈した。
 また、一般的に歩行中の上肢は屈曲20°から伸展9°間、約30°の運動範囲とされているが、各条件での標準偏差は大きく、個人差は著明であった。
 今回、上肢の振りが過大な症例の歩行分析における1つの指標を示す事ができたと考えるが、歩行時の上肢の振りには体幹回旋・骨盤回旋・股関節回旋など多因子が複雑に関与しており、臨床では多角的視点から個々に捉えていく必要がある。今後、角度算出を肩関節と肘関節で細分化し、回旋要素も考慮した追跡研究を検討していきたい。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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