九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 170
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長期間外来リハを受けている症例のADLについて -更衣動作に着目して-
*稲田 尚大坂田 亮松下 兼一
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抄録

【はじめに】
 在宅生活障害者の「できるADL」と「しているADL」の差や介助者介護負担感増大の報告は多い.今回,受傷から10年以上経過,更衣の実際能力と実施状況に差のある症例と家族へのアプローチを通し長期化例の問題や課題について検討したので報告する.
【症例紹介】
70歳代 男性 左視床出血 右片麻痺
介助者は妻で,現在2人暮らし.他者に対して丁寧な対応であるが,妻に対しては命令口調で依存的.
本報告における本人・家族の同意を得て実施した.
【作業療法評価】
両上肢(特に右肩)可動域制限あり.感覚は表在・深部共に軽度鈍麻.Br.StageIV-V-IV.肩甲帯・体幹背面の筋緊張亢進.
ADL(更衣):上衣脱衣はシャツが頭部に掛かり,外せないため要介助.その他自立.着衣,下衣着脱は時間を要するが自立.
家庭では全て全介助.介助者より「動作能力を把握できていない.」「依存的である.」とのこと.
【経過】
「更衣要介助,要時間.」「依存的.」「介助者の動作能力把握不十分.」「家庭での全介助実施.」と問題点を抽出,更衣動作訓練,家族指導(介助方法伝達,家族の訓練介入,更衣マニュアル)を週3回,4ヶ月間実施.
導入前は「家では自分でしている.」と訴え,訓練に対し拒否的であった.
導入後,拒否はなくなるが,家庭では全介助で実施していた.
家族指導後,介助者が動作能力を把握,状況改善の意欲を示す.
【考察】
 在宅生活障害者の生活状況は把握しづらく,訓練室では出来ても家庭では行っていないなど,見落とすケースも多い.
 坪井らは介護者の介護負担感軽減は,障害者が在宅生活を維持する上で重要な要因であるとし,本例も「できるADL」と「しているADL」の差が介護負担を増大させていた.可動域制限や筋緊張亢進による可動性低下,巧緻動作能力低下に伴う更衣のやりづらさから,介助者への依存を強めていた.医療従事者,家族への依存は,非有能感を悪化させることもあり,動作指導に加え,家族指導の必要性が急務と考えた.
 今回は有する更衣動作能力に着眼し実施したが,長期間全介助での更衣動作を「できるADL」から「しているADL」へは繋げられていない.要因は身体・精神機能低下による更衣のモチベーション低下が考えられる.そのため依存が強く,介助者は症例が「家では自分で何も出来なくなった.」と感じており,動作遂行能力への関心の希薄化も考えられる.
 備酒は,結果の見通し,行動に実現の見通しがあるという条件を満たすと自己効力感が生じるとし,今後,心身機能の変化から活動状況を見極め,更衣を行う目的を共に考え,症例,介助者,セラピストの持つゴールを検討,統合する必要がある.家族へは純粋な動作指導に加え,賞賛を与えるなどモチベーション,自己効力感向上を目的とした心理的フォローと訓練室,家庭での反復練習が,「できるADL」から「しているADL」へ変容する学習となることを指導し,協業したフォローアップ体制が重要であると考える.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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