九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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体重免荷型トレッドミルにより歩行の改善がみられた慢性期脳卒中の1例
*岐部 隆明瀧上 英一加藤 貴志
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抄録

【はじめに】
太田らによると歩行パターンはCentral Pattern Generator(以下CPG)の周期的な出力によって、自動的に再生されると考えられている。このCPGの賦活を利用した歩行トレーニングとして体重免荷型トレッドミル(以下BWSTT)が近年注目されている。
 BWSTTとは、ハーネスを用いて身体を吊り上げ、下肢への荷重量を免荷した状態で、トレッドミル上を歩行させるトレーニングである。
 先行研究では脳卒中患者に対する歩行速度等の改善の報告があるが、本邦では慢性期脳卒中患者に対する報告は少ない。
 今回、我々は、慢性期脳卒中患者1名に対し、BWSTTを6ヶ月間試行し「歩行速度」「歩幅」の改善が得られたのでここに報告する。
【症例】
60代、男性。2008年9月発症の脳出血、左片麻痺患者。訓練開始時の上田の片麻痺grade上肢:11手指:11下肢:11。ADLはBarthel Indexにて100点。歩行は杖、装具なしで自立であった。GMT:上肢:4手指:4下肢:4。10m歩行13秒26.歩容の特徴は遊脚終期にてハムストリングスの筋活動の低下が疑われ、初期接地では左踵接地困難であった。
【方法】
 BWSTTの設定として、患者の体重を20%免荷した状態で歩行した。歩行速度は1.5~6.0kmまで訓練の進行にあわせて漸増した。注意点としてボルグスケール10~12に該当する負荷とアンダーソンの基準内で実施した。実施期間は週1回を6ヶ月、全24回とした。全24回のBWSTT試行前後に普通歩行速度、最大歩行速度の10mタイム(以下普通速度、最大速度)、歩幅、TUGを測定した。なお訓練にあたっては対象者に十分な説明を行い、同意を得て行われた。
【結果】
 普通速度は、初回時11秒06、最終時6秒80へと4秒26短縮した。最大速度は、初回時10秒53、最終時5秒80へと4秒73短縮した。普通速度の歩幅は、初回時52.6cm、最終時66.6_cm_へと17.0_cm_延長した。TUGは、初回時6秒98、最終時6秒70へと0秒28短縮した。
【考察】
 今回、我々は、慢性期CVA患者1名に対し週1回の頻度で6ヶ月、BWSTTを試行し、歩行速度等の改善を得た。
 大畑らは、健常成人に対しBWSTT(10~50%免荷)を行いその時の下肢筋電図解析を実施した。その結果20%BWSTTは、全荷重歩行と比較して、半膜様筋と大腿二頭筋の筋活動が増加傾向にあると報告した。
 また、健常成人の全荷重歩行において、ハムストリングスの筋活動は、遊脚中期から立脚初期で増加傾向にある事が報告されている。
 また、ハムストリングスは遊脚終期に遠心性収縮となり、大腿の前方への動きにブレーキとなる。そして立脚初期に控えた強い荷重に備え緊張を高める事で歩幅を決定する作用がある。
 本症例では20%BWSTT前後にて普通速度の歩幅が17.0_cm_延長していたことからハムストリングスの筋活動が高まっていたことが一因でないかと考えられる。
 以上のような歩幅の改善の結果から歩行速度の改善につながったのではないかと考えられる。
 今回の検討は1症例のみであるため、今後症例数を増やし、慢性期脳卒中患者におけるBWSTTの有効性について検討していきたい。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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