九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 188
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脳血管障害片麻痺患者の歩行能力の回復過程に共通する運動力学的特徴
*田邉 紗織
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抄録

【はじめに】
 脳血管障害片麻痺患者の歩行に対するアプローチは、安定性の獲得による歩行の自立を第一とし、その後、歩行スピードや耐久性の改善を主とする応用的能力の獲得へと段階的に展開されることが多い。しかしながら、脳血管障害片麻痺患者の症状には個人差があり、脳損傷の部位や程度が同じであっても、異なる歩容を呈することが少なくない。そのため、より良い治療プログラム立案のためには、脳血管障害片麻痺患者の歩行の一般的特性を把握するとともに、歩行能力の回復過程で患者の多くに共通する現象とそうでないものを選別し、身体機能と関連付けていくことが必要であるように思う。
 そこで今回、脳血管障害片麻痺患者7名について、歩行能力が軽介助と自立に至った時期の歩行を運動力学的視点より分析を行い、自立歩行の獲得のために共通して必要となる因子の検討を行った。

【方法】
 本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象は本研究に対して同意を得られた著明な関節可動域制限、高次機能障害を有さない脳血管障害片麻痺患者7名(男性4名、女性3名)、平均年齢は59.9±13.6歳で、麻痺側は右片麻痺4名、左片麻痺3名であった。Brunstrom StageはStage4が4名、Stage5が3名であった。歩行能力が軽介助レベル(発症日より70.14±39.7日)と、自立レベル(発症日より131.9±62.7日)に至った時期に、独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13 カメラ14台)、床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測を行った。その後、歩行速度と歩行周期における各時期の身体重心の位置、前後方向床反力、下肢の各関節角度と角度変化、モーメントを算出し、対応のあるT検定で比較した。

【結果】
 軽介助期には7名中3名が麻痺側立脚終期(以下TSt)に股関節屈曲位を呈していたが、自立期には7名中6名が股関節伸展位となり、全ての被検者において股関節伸展角度の増大が認められた(P<0.05)。また、自立期の麻痺側前遊脚期(以下PSw)において、床反力前方成分の有意な増加が認められ、歩行速度にも改善が認められた(P<0.05)。

【考察】
 TStは身体が支持側足部を越えて前進する時期であり、PSwは対側下肢へ荷重を移しつつ、遊脚期への準備を行う時期である。歩行自立のためには身体重心の円滑な前方への推進が不可欠であると考えられるが、軽介助期にはTSt時に麻痺側股関節を十分に伸展位に保持することができず、TStからPSwにかけての前方推進が阻害されていたと考えられる。今回の結果より、脳血管障害片麻痺患者の歩行自立のためには、TSt時に股関節を伸展位に保持し、PSwにおいて床反力前方成分を出現させることで、身体重心の十分な前方推進を可能とすることが共通して必要であると考えられた。今後はそれらを可能とするための身体機能について、継続して検討していきたい。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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