九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 010
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視床出血例の画像所見と臨床症状の考察
~損傷部位と機能障害の関係~
*川崎 亘小川 裕池田 桃子森部 耕治
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キーワード: 視床, 画像所見, 臨床症状
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抄録

【はじめに】
 視床は、嗅覚情報の一部を除くあらゆる感覚情報(視覚、聴覚、体性感覚、痛覚、味覚など)を大脳皮質に送る感覚伝導路の中継地点として存在している。視床の損傷によって運動感覚障害が起こることは既知の問題であり、また、同部位の損傷によって覚醒、注意、記憶、情動にも障害をもたらすことが知られている。今回、視床損傷における臨床症状への対処の必要性を明らかにするために、視床の機能解剖を十分に考慮した上で、画像所見を含めた症例の経過を報告する。
【方法】
 急性期病院を経て当院回復期病棟に入院した視床出血患者4例(右3例、左1例)を対象とした。画像所見は入院時に撮影されたCT画像を利用し、視床出血による損傷部位を各例で列挙した。視床の損傷部位は、機能解剖学的に分類される、後部(PO)、腹外側部(VL)、前部(AN)、背内側部(DM)に特定し、臨床症状との統合・解釈を行った。また、本研究の調査を行うにあたり、当院の個人情報保護規定に基づき申請し、その取り扱いを行う許可を得た。
【結果】
 視床出血4例中、2例は中等度から重度の感覚障害を呈し、画像所見からPO・VLの損傷を認め、内、退院時に中等度の上下肢運動麻痺が残存した1例は内包後脚の損傷も認めた。軽度の感覚障害に伴い注意障害・記憶障害を呈した1例はANの損傷を認めた。軽度の感覚障害と注意障害・記憶障害・情動障害を呈した1例はANとDMに損傷を認めた。
【考察】
 視床損傷により感覚障害を呈し、損傷範囲またはペナンブラの影響によっては運動麻痺を伴う症例が多い。今回調査した4例中1例は内包後脚の損傷により運動麻痺が残存したものの歩行自立に至った。しかし、軽度の感覚障害であったが、注意障害・記憶障害・情動障害を伴った1例は、屋外歩行においては監視が必要な状態での退院に至った。この症例は、下肢の運動麻痺は軽度であったが、注意障害・記憶障害に伴う認知機能低下に加え、情動障害といった発動性低下・高い依存性・周囲への関心の低下といた退行的な行動変化が残存した。ANやDMは前頭前野や帯状回・扁桃体といった情動や思考・意欲・感情を司る部位との回路形成があり、ANとDMの損傷によりこれらの認知機能障害を引き起こしたと考える。リハビリテーションを進めていく上で、日常生活活動(ADL)の向上や社会復帰に向けて、運動機能回復の予測や画像所見と臨床症状の把握は重要であると考える。視床損傷患者においては、感覚フィードバックの能力低下を認めるも、視覚代償などの残存能力を活かしての機能回復に至る症例が多いと感じる。しかし、視床損傷に伴う認知機能低下は、学習といった機能回復の重要な役割に対し多大な影響を与える要素であり、特にANやDMの損傷を認めた場合は、認知機能障害の有無を確認し、十分に考慮してリハビリテーションを進めていく必要があると考える。

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