九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 015
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特発性正常圧水頭症における歩行能力の変化
~シャント術後2年間追跡した1例~
*山内 康太鈴木 聡小柳 靖裕熊谷 謙一
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抄録

【緒言】
 特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は歩行障害,認知障害,排尿障害を3徴とし,髄液シャント術により症状の改善を得る疾患である。今回,iNPHに対し脳室-腹腔シャント術を施行し,術後2年間の歩行能力を追跡した症例の経過を報告する。
【症例・経過】
 80歳,女性。当院受診2ヶ月前より歩行障害が急激に進行し,画像所見より脳室の拡大(Evans Index0.27),シルビウス裂の拡大,円蓋部の狭小化を認めiNPH疑いにて入院。CSF tap test前後において歩行能力の改善認め,脳室-腹腔シャント術施行し,術後16日目に自宅退院。緩徐に身体機能は悪化し術後1年4ヵ月後より老人保健福祉施設に入所となる。
【方法】
 評価項目は10m歩行試験にて自由および最大歩行における秒数と歩数,TUGにおける秒数と歩数,自由歩行における歩幅,歩隔,6分間歩行距離,MMSEとした。測定はCSF tsp test前後,シャント術7日目,14日目,1年後,2年後に実施した。なお,今回の調査はヘルシンキ宣言の趣旨に沿った倫理的配慮を行った。
【結果】
 自由速度10m歩行試験における秒数・歩数はCSF tap test前後で38.7秒,78歩から18.1秒,33歩と改善し,7日目において15.8秒,28歩と最高値を示し,1年後では20.1秒,37歩,2年後では29.9秒48歩であった。最大速度10m歩行試験も同様の傾向であった。TUGにおける秒数・歩数はCSF tap test前後では55.0秒,88歩から26.9秒,42歩と改善し,14日目に24.0秒,38歩と最高値を示し,1年後33.0秒,44歩,2年後43.8秒,56歩であった。歩隔はCSF tap test前は25.0cmであったが,tap test後は18.5cmと改善し,1年後19.0cmと維持していたが,2年後では24.5cmとtap test前と同等であった。6分間歩行距離はCSF tap test前後では85mから138mと増加し,14日目では227mと最高値を示し,1年後190m,2年後100mであった。MMSEはCSF tap test前後では14点から16点とわずかであるが増加し,14日目では20点,1年後19点,2年後16点であった。シャントバルブ圧は退院時は120mmH2Oであり,退院後は130mmH2Oで一定であった。
【考察】
 全ての項目にてCSF tap test後に改善し,シャント術後7,14日目に最も改善していた。シャント1年後,2年後では歩行障害,認知障害は緩徐に進行したが,2年後においてもCSF tap test前より各パラメーターは高値であった。歩行障害,認知障害の緩徐進行はシャント機能不全ではなく,加齢や活動性の低下が主要因であると考えられた。

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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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