九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 028
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Zone3手指屈筋腱断裂修復術後における早期運動療法の経験
*油井 栄樹田崎 和幸野中 信宏山田 玄太坂本 竜弥林 寛敏秋山 謙太澤田 知浩貝田 英二宮崎 洋一
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抄録

【はじめに】
 一般的にZone3手指屈筋腱断裂修復術後の予後は良好とされており,後療法は固定法が選択されることが多い.しかし早期社会復帰の観点より拘縮予防が最も期待できる術後早期にセラピストが介入する意義は大きい.今回Zone3手指屈筋腱断裂例に対する術後早期運動療法を経験したので報告する.
【症例と術中所見】
 症例は本報告に承諾を得た40歳代の建設業を営む男性である.乗っていた脚立が折れ転落し,その折れた脚立にて左手掌部を串刺しするようにして受傷した.左示指深指屈筋腱断裂,母指~環指指神経断裂の診断にて翌日腱及び神経縫合術を行った.術中所見は,示指深指屈筋腱は虫様筋起始部のやや遠位で断裂しており,横手根靭帯を切離して近位断端を同定し,吉津1法にて縫合した.次に固有尺側掌側母指神経,第1・2総掌側指神経を縫合した.腱・神経ともに断端部を新鮮化し,若干強い緊張にて縫合し,術後固定肢位は指屈曲位とした.
【術後セラピィ】
 術後2日目より指他動屈曲位を自動屈曲運動にて保持するholding運動とDIP,PIP単関節での他動伸展運動をセラピスト管理下にて開始した.指自動伸展運動は,虫様筋より遠位での断裂であるため積極的に行いたかったが,神経縫合の緊張が高いため術後3週経過時から開始した.
【結果】
 経過観察可能であった術後13週経過時における最終評価では,%TAM103%,Strickland法98%であった.また指腹部におけるSemmes Weinstein Monofilament Testでは母指尺側・環指橈側4.08,示指4.93,中指5.46であり,同時期より現職復帰した.
【考察】
 我々は屈筋腱断裂修復術後に早期運動療法を行う際,運動時以外は再断裂が予防しやすい損傷指屈曲位固定を選択する.そのため屈曲拘縮しやすいDIP,PIP関節は単関節ごとの他動伸展運動にて対応している.MP関節を屈曲位として行うこの運動は,Zone1・2修復例と比してZone3修復例では腱縫合部の遠位腱滑走距離が減じるため,より安全に行うことができる.本症例においても経過を通して全く関節性の屈曲拘縮を呈さなかった.またZone3は虫様筋が存在しており,指自動伸展運動を行うKleinert法はこの虫様筋の収縮によりその遠位部での深指屈筋腱縫合部への緊張を減じている.しかし虫様筋起始部より近位での深指屈筋腱断裂例では,虫様筋の収縮が腱縫合部への緊張を逆に高めると考えられる.ゆえにZone3においては,一概にKleinert法を併用するのではなく,腱縫合部が虫様筋起始部よりどの部位にあるのかに着目してセラピィを行う必要がある.さらに本症例では見られなかったが,Zone3損傷では虫様筋の拘縮も起こり得るため,奇異的現象の有無を評価し,必要であればその伸張運動での対応が肝要である.以上のようにZone3においても,解剖学的特徴を踏まえた早期運動療法は有効であると考えている.

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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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