【目的】
橈骨遠位端骨折例の後療法では,矯正損失することなく良好な手関節可動域を獲得することが望ましい.我々は手関節運動による矯正損失を可及的に防止するため,徒手的に手関節部を遠位方向に牽引した状態で行う手関節早期他動運動療法(以下TN法)を行った.その成績を検討し報告する.
【対象と方法】
2005年からの5年間に演者がTN法を併用して後療法を行い,本報告に同意した男性9例10手,女性31例32手を対象とした.平均年齢61.1歳,AO分類A2:7手,A3:11手,B3:2手,C1:9手,C2:6手,C3:7手であった.初期治療は保存6手,経皮pinning 2手,non-bridge型創外固定1手,bridge型創外固定は8手中経皮pinning併用4手,掌側locking plateは25手中創外固定併用1手であった.TN法開始時期は,掌側locking plateとnon-bridge型創外固定例が術後平均1.1週,その他の例は初期治療後平均4.3週であった.方法としてTN法開始後の経時的な手関節他動掌背屈可動域とその健側比,X線評価ではTN法開始前と最終時のradial inclination,volar tilt,ulnar varianceを調査した.なお両手骨折例の比較可動域は背屈65度,掌屈65度とした.
【結果】
TN法開始後1週,2週,4週,8週経過時の平均手関節他動可動域と健側比は,背屈では56.8度,60.1度,63.1度,63.7度で健側比は88.5%,94.4%,98.3%,99.3%であった.掌屈では54.2度,57.4度,59.5度,61.0度で健側比は87.0%,92.2%,95.6%,97.8%であった.X線評価ではvolar tilt 3度,ulnar variance 2mm以内の矯正損失を5手に認めた.
【考察】
TN法により開始初期に飛躍的な可動域改善を示すと共にその後も良好な改善経過が認められた.5手に認めた矯正損失は軽度であり,本法は有用な運動法と考えられた.