【はじめに】
今回、転倒を繰り返した下腿切断の症例を担当して患者理解に難渋したが、CT所見を基に臨床推論を行い、患者理解に繋がったため報告する。
【症例紹介】
80才代前半の男性。S49年からアルコール依存症で入退院を繰り返し、現在は断酒に成功。A病院生活支援施設に入所中に左第5趾の壊疽が起こり、H22年6月初旬B病院にて左下腿切断術施行。その時点で症例に義足作製の意志なく、A病院に戻ると義足作製の希望あり。H22年9月下旬義足作製、リハビリ目的にて当院へ入院の運びとなる。
【理学療法開始所見】
幻肢(±)、幻肢痛(-)、断端部痛(-)、粗大筋力テストは両上肢・右側下肢4、左側下肢3で、断端長は15.3cmであった。病棟生活でのADL状況はPトイレ使用、車椅子駆動しての移動可能。CT所見では脳質周囲の低吸収域、前頭葉・側頭葉の低吸収域、脳全体の萎縮、視床の高吸収域がみられる。
【経過】
訓練開始当初の性格は穏やかであったが、義足作製し、仮義足装着しての訓練を開始すると作業療法の介入を拒む様子や易怒性が出現し、ベッド周囲での転倒を繰り返した。義足を装着しての起立、立位保持、平行棒内歩行、車椅子移乗は可能となり、H23年2月下旬に本義足作製し、A病院へ転院の運びとなる。
【考察】
症例は理学療法を介入する中で日によって訴えが二転三転することや自分の考えに固執し、他者からの意見を拒むことに加え、ベッド周囲での転倒を繰り返す状態がみられた。
症例の変化に合わせてCT所見から臨床推論を行い、症例に大脳萎縮に伴う広範な症状が存在すると考えた。転倒の繰り返しは扁桃体や前頭葉に加え、海馬等の機能低下による危険回避に対する認知や注意の機能低下や短期記憶、ワーキングメモリーの保持困難等の症状によるものと考えた。また、日によって訴えが二転三転することや自分の考えに固執し、他者からの意見を拒むことは、前頭葉の機能低下に伴う情動を抑制する理性脳としての機能低下や意思決定の困難によるものと考えた。
一般に80才以上の血管性切断は、義足歩行は極めて難しいとされており、CT所見や症例の行動から再転倒により断端部に傷をつくり、義足装着ができない期間を生じることが考えられるため、訓練開始時に目標とした実用的な義足歩行の獲得からベッド周囲での動作獲得に目標を変更した。
退院時には時折ブレーキのかけ忘れはみられるものの、ベッド周囲での転倒はみられなくなり、ベッド周囲での動作獲得に繋がる義足装着及び、義足装着しての起立、立位保持、移乗が可能となった。上記の動作獲得により、義足作製は症例の転倒リスク軽減に繋がったのではないかと考える。
今回、CT所見を基に臨床推論を行ったことで、問題行動と思われがちな症例の行動も脳の機能低下によるものであることが分かり、CT所見を基に臨床推論を行うことの重要性は高いと考える。