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【目的】
随意的な咳嗽の強さは、気道クリアランスの成否や自己排痰の可否を規定する重要な要因であり、医療スタッフが咳嗽力を評価し把握することの重要性は高い。
咳嗽力を反映する最大呼気流速の決定因子として、呼吸筋力、中枢気道径、気道抵抗、胸郭・肺の弾性力などがあげられる。近年、ストレッチポールを用いたエクササイズパッケージであり、日本コアコンディショニング協会が推奨するベーシックセブン(以下B7)によって胸郭可動性を増加させることが確認されている。胸郭可動性は咳嗽時最大呼気流速(cough peak flow:CPF)との相関が認められ、咳嗽の第2相では最大吸気圧との関係、第4相では最大呼気圧との関係も報告されている。
簡便で安全なB7によって咳嗽の運動的側面である咳嗽力向上への効果が確認できれば呼吸器疾患患者への応用の可能性も期待できるのではないかと思われるが、渉猟した範囲ではそのような報告は見当たらない。
そこで今回、胸郭可動域、呼吸筋力、CPFのデータを測定し、その効果について検証することを目的とした。
【対象】
運動器・呼吸器疾患のない健常成人11名であり、年齢26.3±6.8歳、身長159.6±7.3cm、体重50.5±7.8kgであった。
【方法】
①胸郭可動域:竹井機器工業株式会社製胸郭可動域測定装置を使用し、腋窩部、剣状突起部および第10肋骨部の最大吸気時と最大呼気時の拡張差を記録した。
②呼吸筋力:ミナト医科学株式会社製呼吸筋力計ASSを用い、マウスフィルタおよびノーズクリップを装着した。残気量位から最大吸気努力を行ったときの最大吸気口腔内圧(maximum inspiratory mouth pressure:PImax)と、全肺気量位から最大呼気努力を行ったときの最大呼気口腔内圧(maximum expiratory mouth pressure:PEmax)を測定した。
③CPF:ミナト医科学株式会社製オートスパイロAS-507を使用し、マウスフィルタおよびノーズクリップを装着した。最大吸気時からの随意的咳嗽を全力で行うよう指示し、フローボリューム曲線より最大呼気流速を求めた。
④B7:LPN社製ストレッチポールEXを使用し、10~15分実施した。
⑤統計処理:SPSS 11.0J for Windowsを用い、B7介入前後でWilcoxonの符号付順位和検定を行った。有意水準は5%未満とした。
上記①~③については背もたれのない椅子を使用し直立座位とした。また、頚部および体幹は中間位とし、空腹時に測定した。さらに④介入までには少なくとも24時間以上の間隔を空けた。
【結果】
介入前後で胸郭拡張差(腋窩部)が2.0±0.9cmから3.5±1.5cmとなり有意差を認めた(P<0.05)。CPFも367.8±83.4L/minから407.5±51.5L/minとなり有意差を認めた(P<0.05)。PImax、PEmaxには有意差を認めなかった。
【考察】
B7により胸郭拡張差(腋窩部)が拡大した。これが咳嗽の第2相である深吸気に影響を与え、肺弾性圧の上昇によりCPFの増加に寄与したものと考える。リアライメント効果による呼吸筋出力向上の可能性も予想していたが、今回の結果からは否定的であった。これは対象を健常成人に限定したことで、マルアライメント改善の影響が少なかったためと考える。
【まとめ】
B7によって健常成人における随意的咳嗽力の向上を認めた。今後は介入期間や対象の範囲を絞り検討していきたいと考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者には事前に本研究に関する目的、方法、内容などを十分に説明し、参加の同意を得た。