九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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神経メラニン画像を用いたパーキンソン病患者の黒質の信号強度測定プログラムの開発と解析
*玉利 誠*宇都宮 英綱*永良 裕也
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p. 20

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抄録

【はじめに】

 パーキンソン病(以下PD)は黒質のドパミン細胞の変性を責任病理とする多系統変性疾患であるが,これまでその病勢をMRIで評価することは困難であった.そのため,PD患者のリハビリテーションでは運動障害の重症度に応じたプログラムの設定が推奨される一方,黒質の変性程度と運動障害の重症度との関連やリハビリテーション効果との関連について検証することは困難であった.しかし近年,ドパミン細胞に含まれる神経メラニンをMRIにて描出する手法(神経メラニン画像,以下NMI)が確立されたことから,NMIを用いて黒質の変性程度を非侵襲的かつ簡便に定量化することができれば,より効果的なPD患者のリハビリテーションプログラムの構築に寄与するものと考える.そこで今回,NMIを用いて黒質の信号強度を半自動的に定量する解析プログラムを開発し,PD患者と健常人の比較を行った.

【対象と方法】

 対象は,PD患者29例(男性11例,女性18例,年齢65.9±7.9歳)(以下,患者群)と健常人26例(男性11例,女性15例,年齢68.0±11.6歳)(以下,対照群)とした.患者群のHoehn & Yahr stageは,stageⅠ:6例,stageⅡ:1例,stageⅢ:15例,stageⅣ:7例,stageⅤ:0例であった.NMIの撮像にはPHLIPS社製Achieva 3Tを用い,撮像条件はFast Field Echo,matrix size:320×242,FOV:200×200mm,Slice厚:1mm,TR:27ms,TE:5.7msとした.解析にはMATLAB(Math Works社製)にて開発した解析プログラムを用い,NMIを平滑化した後,黒質(背外側部,中央部,腹内側部)と中脳被蓋の信号強度を定量し,黒質の各部位と中脳被蓋の信号強度比を算出した.統計学的処理にはR commanderを用い,各群の黒質の各部位と中脳被蓋の信号強度比について,一元配置分散分析(Post hoc: Tukey法)とKruskal-Wallis検定(Post hoc: Steel-Dwass法)を併用して比較した.また,患者群と対照群の信号強度比について,Mann-Whitney U検定とt検定を併用して比較した.

【結果】

 患者群の黒質の各部位と中脳被蓋の信号強度比は,背外側部:1.01±0.02,中央部:1.07±0.03,腹内側部:1.08±0.03であり,背外側部と中央部(p<0.001),背外側部と腹内側部(p<0.001)の間に有意差が認められた.同様に,対照群は背外側部:1.05±0.03,中央部:1.10±0.02,腹内側部:1.12±0.03であり,背外側部と中央部(p<0.001),背外側部と腹内側部(p<0.001)の間に有意差が認められた.また,両群の信号強度比を比較した結果,背外側部(p<0.001),中央部(p<0.001),腹内側部(p<0.001)のすべてにおいて,患者群が有意に低値を示した.

【考察】

 剖検脳を用いた神経病理学的研究において,黒質の背外側部は腹内側部と比較してメラニン含有量が少ないことや,PDでは黒質の変性が外側に始まり,次いで正中に向かって進展することが知られている.本研究においても,背外側部の信号強度比がその他の部位よりも有意に低値を示し,また,PD群の黒質各部位の信号強度比が対照群よりも有意に低値を示したことから,本研究の結果は病理学的知見とよく一致しており,PDの黒質の変性を反映したものであると考えられる.これらのことから,NMIと本研究で開発した解析プログラムを用いて非侵襲的かつ簡便に黒質の病勢評価が可能であることが示唆され,今後,運動障害の重症度との関連などについて調査することにより,より効果的なリハビリテーションプログラムの構築に寄与すると思われる.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はF病院の倫理審査委員会の承認(FS-95)を受け,対象者の同意のもとに各種データを連結不可能匿名化して行った.

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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