九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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脳卒中後の肩関節疼痛(PSSP)に対する電気刺激療法(TENS)による鎮痛効果の試み:症例報告
*中原 寿志*竹内 亨*大竹 英次*田上 茂雄*柚木 直也
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キーワード: PSSP, 鎮痛, 疼痛管理
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p. 47

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抄録

【目的】

経皮的電気刺激療法(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:以下TENS)はゲートコントロール理論(Gate Control Theory:以下GCT)と内因性オピオイド(以下:オピオイド)放出などによる疼痛管理を目的とし、非侵襲的で副作用がほとんどない比較的安全な手段として臨床でも多用されている。脳卒中後の肩関節疼痛(Post Stroke Shoulder Pain:以下PSSP)は臨床上、高頻度で経験する機能障害の一つで、Lindgrenらは、PSSPの発生率は約30%と報告している。PSSP改善に有効な治療手段の報告は少なく、臨床的に非ステロイド性抗炎症薬(Non steroidal anti-inflammatory drugs:以下NSAIDs)を服用することもあるが、長期服用では副作用の影響が問題となる。今回、PSSPを呈する症例に対し鎮痛に向けたTENSを、GCT・オピオイド放出の鎮痛メカニズムを最大限に反映させた方法で介入効果を検証した。

【方法】

症例は、脳出血発症後2か月経過し右片麻痺を呈する70歳代女性。麻痺側上肢機能はBrunnstrom Recovery Stage(以下BRS)Ⅱで、Fugl Meyer Assessment(以下FMA)上肢6点であった。安静時に肩関節~上肢にかけて疼痛の訴えが強く100mmVisual Analog Scale(以下100mmVAS):71mmであった。今回はABデザインを採用し、A期を通常理学療法期(以下:コントロール群)、B期を電気刺激期(以下:介入群)とし、各期は2週間と設定した。疼痛評価は100mmVASを用いて、毎回の介入前(以下Pre)・介入後(以下Post)で評価を実施した。電気刺激はESPURGE(伊藤超短波社製)を使用し、刺激パラメータは周波数1~250Hzの変調モード、パルス幅100?s、電極貼付部位をC5/6/7/8/Th1のデルマトーム上に設定した。

統計学的解析は対応のあるt検定を用い、すべての統計解析はR commander version2を使用、統計学的な有意水準は5%未満とした。

【結果】

2群間の変化量はコントロール群が4.2±9.67mm、介入群が40.6±17.91mmと介入群で鎮痛効果が認められた(p<0.05)。Pre-Postの比較では、コントロール群ではPre46.3±20.65mm-Post41.3±17.05mm(p>0.05)と差が認められなかったが、介入群ではPre58.4±22.47mm-Post 17.8±7.91mm(p<0.05)と顕著な差が認められた。

【考察】

TENSによる鎮痛メカニズムとしてGCTとオピオイド放出の関与が重要であると報告されている。TENSによるAβ線維への選択的な刺激で疼痛伝達系のゲートが閉ざされ、疼痛伝達線維のAδ線維・C線維が遮断されGCTが成立する。今回、肩~上肢にかけての神経支配領域を考慮してC5/6/7/8Th1のデルマトーム上への電極貼付がGCTの成立に影響したと考える。また、周波数によって異なるオピオイドが放出されることを利用し、周波数を1~250Hzで変調させることで、より多くのオピオイドが放出され鎮痛に至ったと考える。TENSは、疼痛管理の視点から長期間使用しても副作用は比較的少なく非常に安全で有効な手段である。TENSでPSSPによる二次的障害(不動・拘縮・疼痛悪化)に対して疼痛管理することで、即時的な鎮痛効果だけでなく長期的な上肢機能改善や、NSAIDsの減薬にもつながり、より安全で効果のある理学療法を展開していく一助になり得る可能性があると考える。

【まとめ】

PSSPに対して、TENSによる鎮痛を試みた。TENSがPSSPの疼痛管理として確立されれば、疼痛出現を最小限に抑えられることや、更なる上肢機能向上など長期効果につなげられる可能性が広がる。

なお、本研究は宮崎県理学療法士会の助成を受けて実施した。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究を行うに当たり、ヘルシンキ宣言を遵守し、対象には本研究の目的・内容について十分な説明を行い、同意を得た。

開示すべき利益相反はなし。

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