ラテンアメリカ・レポート
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所康弘 著 『米州の貿易・開発と地域統合 ――新自由主義とポスト新自由主義を巡る相克――』
北野 浩一
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2018 年 35 巻 1 号 p. 78

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トランプ政権の発足で、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉など米国の対外関係の見直し、とりわけNAFTA(北米自由貿易協定)を軸とした対墨関係が今後どのような道を歩むのか、目が離せない状況が続いている。これまでのところ、就任前の過激な言動ほどにはドラスティックな変化は見られないが、米国内で強まる対外経済関係見直しの気運、およびラテンアメリカ側の対米関係の再定義の動きには、社会の深層での変化も踏まえた理解が必要である。

本書は、このようなタイムリーな時期に刊行された、米州の貿易と開発について政治経済的視点を踏まえて展望する好著である。TPPについては、日本国内では純粋な経済効果試算に基づく評価と、国内経済への打撃や政治・社会的な視点から批判的な論評とに大きく分類されるが、本書は経済データによる裏付けを加えつつ、米州全域を包含した政治経済的な視点で検討を行っている。その立場は、新自由主義による経済統合について批判的であるが、主張の裏付けは学術研究に基づいて丁寧に示されている。

構成は、大きく2部構成となっている。まず、序章において米州地域の貿易と開発に関する歴史的概観を行い、植民地期から現代米国のFTA戦略へとつながる論理が展開される。第1部は、「北・中米編」と題され、NAFTAを軸に、米国の製造業、およびメキシコの農業と製造業にどのような構造変化がもたらされたか、について明らかにしている。「南米編」と題される第2部では、地域横断的な切り口を中心に、地域主義、「資源採掘型」開発、および「左派・中道左派」といったテーマを、貿易と開発の関連で検討している。

政治学的な議論にやや重きが置かれ、メキシコなどの製造業や経済関係の実態がわかりづらい面があるが、政治の動きと経済協定の関連は詳細に論じられている。本書は、トランプ政権とラテンアメリカ諸国の今後の政治経済的な関係を展望するために、歴史的な厚みのある視座を提供する。

 
© 2018 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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