2018 年 35 巻 1 号 p. 80
20世紀後半のブラジルでは、アマゾンの「開発」が進められた。アマゾン横断道路の建設や大規模な鉱山開発のほか、最近は大豆などの農産物生産や大規模ダムを備えた水力発電の建設も行われている。しかしこの「開発」は、熱帯雨林の環境だけでなく、そこに住む人々の生活も破壊してきた。アマゾンの人々は「開発」に抵抗し、持続可能な社会や生活を求めて、さまざまな工夫や努力を重ねてきた。民衆の運動はアマゾンだけにとどまらず、1980年代の民主化に伴って国内全土へと広がった。そして1992年の地球サミット(於リオデジャネイロ)や2001年の世界社会フォーラム(於ポルトアレグレ)により、世界へと広がった。
このようなアマゾンの人々の抵抗と、自然と人間との共生を目指す様子を描いたのが本書である。具体的には以下の10の事例を取り上げている。生態系を守る農業であるアグロエコロジー、ゴム樹液採取労働者セリンゲイロによる採取経済保護区の設立要求、農業と林業を組み合わせたアグロフォレストリーの実践、先住民の土地権利の侵害と彼らの生活の変化、水力発電所建設の反対運動、土地なし農民運動の闘い、社会問題の解決を目指して先住民や貧困者と連携しながら工芸製品を開発するソーシャルデザイン、公正な取引によって生産者の生活向上を目指すフェアトレード、アマゾンの都市貧困層の子どもの権利を守る活動、日系移住者のNGOによる森を活かして守る運動である。
本書で描かれた事例を読むと、ブラジル経済の成長により都市部を中心とした国民の生活水準が大きく向上する一方で、それを可能にした「開発」によって、多くの人々が苦しんでおり、それを克服するためにさまざまな努力と工夫を重ねている様子がよく分かる。そしてブラジル政府もそれを支援するために、さまざまな法律や制度を作ることで、この問題の解決につとめている。
編者が序章で述べる「市場経済の根底からの変革、(中略)自然と人間の共生や連帯を目指す運動」が、本書で描かれているような抵抗にとどまるのか、それとも市場経済を置き換えるような選択肢となるのか、筆者らの今後の研究に期待したい。