ラテンアメリカ・レポート
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資料紹介
⼭岡加奈⼦ 編 『ハイチとドミニカ共和国 ――ひとつの島に共存するカリブ二国の発展と今――』
山岡 加奈子
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2018 年 35 巻 1 号 p. 81

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本書は、カリブ海で二番目に大きいイスパニョーラ島を分け合うハイチとドミニカ共和国の対照的な経済・政治発展と、両国を取り巻く国際環境を取り上げた。

序章(尾尻希和)で両国の概要を紹介した後、1章(狐崎知己)では、ハイチとドミニカ共和国の発展経路をたどり、歴史的にどの分岐点(何度かある)をきっかけに発展あるいは停滞に向かったかを分析した。次に2章(尾尻希和)は、両国の政治発展を、①国家建設、②民主化、③福祉国家建設の3つのレベルに順に進むという視点から書かれている。ハイチは①国家建設レベルでもがいており、ドミニカ共和国は③福祉国家建設を目指していることを示した。

3章(久松佳彰)は入手可能な経済データを駆使し、両国の対照的な経済発展の現状を示した。ドミニカ共和国は中進国に到達しているが、「中進国の罠」にはまっている可能性がある。ハイチは「貧困の罠」に陥ったままである。4章(宇佐見耕一)では、両国の人々の生活実態を、社会政策の面から分析した。ドミニカ共和国はカバー率に問題はあるものの、公的年金や労働災害保険など、制度は一通り揃っている。ハイチは国家の能力が低く、海外支援頼みである。

5章(山岡加奈子)は、奴隷制を廃止したハイチと、奴隷制を継続したい欧米列強とドミニカ共和国のエリート、という構図が、イスパニョーラ島に2つの国を生んだこと、両国の力関係が20世紀に逆転し、ドミニカ共和国側のレイシズムと反ハイチ主義が両国関係を複雑にしていることを述べた。最後に終章(山岡加奈子)で、本全体をまとめている。

ハイチに関してもドミニカ共和国に関しても、日本では先行研究が少ない。両国の現在の状況を理解するためには、過去300年の歴史的背景を理解する必要がある。歴史的背景を踏まえつつ理解が進むよう、1章から4章まではほぼ時系列に配置されている。また、両国を理解することで、開発、比較政治、経済学、社会政策、国際関係のそれぞれのディシプリンの理解も可能になるように工夫した。これにより、大学で教科書として使っていただくことが可能になっている。

 
© 2018 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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