2019 年 35 巻 2 号 p. 100
21世紀に入ってすでに20年近くが経過している。対外累積債務問題やハイパーインフレーションなどマクロ経済の変動がラテンアメリカ経済を特徴づけた時代は一部の国を除いて終焉し、新興国向け一次産品輸出の拡大など経済グローバル化の恩恵でブームに沸く国々が出てきている。その一方で、貧困や経済格差など社会的問題は依然解決にはほど遠く、開発に関する新しい知見を生かした施策が求められている。
こういった現代的な視点からラテンアメリカ経済を概説する教科書が望まれていたが、ここで紹介するThe Economics of Contemporary Latin Americaはそのようなニーズに応えるものである。著者のひとりであるフェリペ・ララインは、代表的なマクロ経済学の教科書である『マクロエコノミクス』をジェフリー・サックスとともに著した経済学者であり、またピニェラ大統領のもとで現在二期目のチリ財務大臣を務める学界・政界に影響力のある人物である。また、共著者のベアトリス・アルメンダリズは、マイクロファイナンス研究の第一人者であり、著作も多い。世界的にも著名でラテンアメリカに精通したマクロ・ミクロの経済学者によるバランスのとれた教科書になっている。
本書の最大の特徴は、ラテンアメリカの経済発展に関する課題を、近年有力になっている経済成長に対する見方に依拠して解説していることである。これは、資本蓄積や貿易構造による説明がなされてきたが、本書では「地理的要因」(サックスら)や「制度」(アセモグルなど)といった要因を重視している。そのため、それらを形成する歴史的背景や、社会的・政治的側面についても、それぞれ第Ⅰ部、第Ⅱ部で十分な解説がなされている。第Ⅲ部、第Ⅳ部ではマクロ経済政策や貿易・金融自由化、労働政策などの施策を今世紀の動きを中心に提示している。
近年の経済学における経済発展・経済成長についての広範な研究成果を用いて、ラテンアメリカ経済発展の理解に資する、という点では本書は卓越している。章末には「まとめ」と「設問」もあり、教科書としての利用に配慮があるが、同時に近年のラテンアメリカ経済研究の成果を広くレビューするうえでも有益である。