ラテンアメリカ・レポート
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現地調査報告
ドミニカ共和国・プエルトリコ・米州開発銀行における公文書管理の実態
則竹 理人
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2019 年 36 巻 1 号 p. 59-69

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要約

ドミニカ共和国の国家レベルの公文書、プエルトリコの公文書、米州開発銀行の公文書の各管理状況について、2018年11月に現地調査を行った。ドミニカ共和国では、2008年に制定された法律により国家総合文書館を中心とした公文書管理体制が確立しようとしており、ラテンアメリカの他国と比較しても類をみない先進事例となる可能性があることから、今後の動向が注目される。自治領の一例として調査したプエルトリコでは、公文書が米国本国に移管されることはなく自前で管理されながらも、その手法は米国型と欧州型が入り混じっており、領内での標準は定まっていないのが現状である。国際機関の一例として調査した米州開発銀行では、米国型の一要素である分散保管・集中管理型の手法が確立していたが、国際機関の中でいかに特徴的であるかを示すには、他機関のさらなる調査が求められる。

はじめに

筆者は、2016年2⽉にチリ・ボリビア・ペルーを、2017年1〜2⽉にエクアドル・コロンビアを、同年11月にメキシコ・グアテマラ・パナマを訪問し、各国の公⽂書管理の現状調査を行い、本誌Vol.33 No.1、Vol.34 No.1、Vol.35 No.1において報告した(以下、「前報告」)。去る2018年11⽉にはドミニカ共和国とプエルトリコを訪れ、現地の⽂書館の運営実態の調査を⾏った。本稿では前報告と同様に、ドミニカ共和国・プエルトリコそれぞれにおける公⽂書管理の特徴的な実情についてとりあげる。

なお、「公⽂書管理」の定義付けや調査対象範囲は前報告と同様であるため、本稿ではあらためて記述しない。詳しくは前報告(Vol.33 No.1)を参照されたい。また、すでにとりあげた国々について⾔及することがあるが、詳細は前報告を参照されたい。

さらに、今回の調査では米国のワシントンDCにも足を運び、ラテンアメリカ関連の国際機関の一例として米州開発銀行の本部を訪問し、公文書管理担当部署の職員に対しインタビュー調査を行った。本稿ではその成果についても述べる。

1. ドミニカ共和国

(1) 国全体の動向―新法制定で先進事例となるか―

これまでの調査の中で、行政府、司法府、立法府にかかわらず、国立の文書館の指導のもとで一貫した公文書管理を行おうとしていた国として挙げられるのはパナマ一国だけであった。しかし、今回の調査をとおして、本節でまとめるドミニカ共和国もそのひとつとして加えられることがわかった。さらにいえば、単に国立の文書館の指導のもとで機能しているだけでなく、永久保存の決まった公文書の最終的な移管先が国立の文書館であると各機関が想定している意味では、パナマよりもさらに発展していると考えられる。その差は、ドミニカ共和国において公文書管理に関する法律が2008年に新たに制定され(Congreso Nacional 2008)、それが広く浸透していることに起因するといえる。

この類の法律は同国にとって初めてのものではなく、1935年には国家総合文書館の役割についての法律が制定されており(Congreso Nacional 1935)、歴史的に重要な国家レベルの公文書が国家総合文書館で管理されることが明文化された。しかし、各機関のどの文書が重要かを判断し、どのような流れで最終的に国家総合文書館にたどり着くかについてまでは明記されておらず、実際のところ国家総合文書館に移管される体制は整っていなかったようである。そのような中、国家総合文書館の意義や役割だけでなく、国の公文書の取り扱いについて全般的に示した法律が2008年に制定された。それに基づき、国の行政機関だけでなく立法機関、司法機関の文書も国家総合文書館が統括(管理に関する指導および永久保存文書の受入を)している。

これまで、ラテンアメリカの8カ国における公文書管理事情を調査してきたが、そのほとんどで国の公文書の取り扱いについて全般的に示した法律を制定しており、その意味ではドミニカ共和国は珍しい例とはいえないかもしれない。しかし、今回訪問したいずれの文書館においても2008年制定の法律を順守する姿勢がみられたのが、ほかの国々との大きな違いである。ほかの国々では、法律のことが話題に挙がっても、「法律は法律」といった扱いで現実は乖離していることが往々にしてあり、法律の有無やその内容の充実度は、実際の公文書管理の発展度合の指標にはならなかった。しかしドミニカ共和国の場合、2008年制定の法律において公文書管理の中核とされている国家総合文書館だけでなく、立法府の文書館や司法府の文書館においても、インタビュー調査の中で職員が自発的に法律に言及しそれに従った体制を整えていることを説明してくれた。

ただし現時点では、2008年以降に実際に立法機関や司法機関から国家総合文書館へ公文書を移管した実績はないようである。法律を順守する姿勢があるのは間違いないが、国家にとって重要な文書が、実際に三権分立の枠を超えて国家総合文書館によって管理されることになるのかどうかについては、法律の制定から10年ほどしか経っていない現段階では判断できない。中長期的なスパンで今後の動向に注目する必要があるといえよう。

(2) 各館の概要

① 国家総合文書館

先述のとおり、国内の公文書管理を統括、指導する機関であり、かつ(法律上は)永久保存の決まった国家レベルの行政文書、立法文書、司法文書、さらには公証人文書の最終移管先であるが、現状はおもに行政文書が移管される施設である。国家レベルの公文書に加え、首都サントドミンゴの公文書や、一部の民間団体の文書も管理している。

行政文書と立法文書は作成、取得から10年経過したところで、司法文書は50年経過したところで当館に移管される。各機関での文書管理や当館への移管時の文書の評価選別(各文書の移管、保存期間、廃棄の決定)には、当館も関与する仕組みになっている。また公証人文書は、公証人の死後50年を経過した段階で当館に移管されるが、前報告のグアテマラと同様に(後述のプエルトリコとは異なり)「公正証書原簿(Protocolos)」のみ移管される。

収蔵規模は厚さにして30キロメートルほどある。職員数は340人でうちアーキビスト(公文書管理の専門職)は150人ほどと、これまで訪問した各国の文書館と比較しても格段に多かった。当館でアーキビスト教育も行っている。文書のデジタル化や修復に関する設備も充実しており(写真1)、国の財政において公文書管理事業に力を入れていることが大いに伝わった。(詳しくは後述するが)同じくカリブ地域にあるプエルトリコでは文書のデジタル化に難儀しているが、プエルトリコの総合文書館の職員が自館の説明に先立って、別の国であるドミニカ共和国における文書のデジタル化が極めて発展していることを話題にするほどである。

写真1 ドミニカ共和国の国家総合文書館にある、文書のデジタル化を行う機械。(筆者撮影)

② 上院文書館、下院文書館

ドミニカ共和国の立法府は二院制である。文書館は各院に置かれており、メキシコなどと同様である。前報告で、メキシコにおいては両院の文書館の連携がうまくいっていない点に言及したが、ドミニカ共和国においても、文書の評価選別基準を両館で協議しているわけではなかった。図書館については両院共通の施設が置かれているものの、文書館については連携が不十分なようである。

上院文書は、作成、取得から5年ほどが経過したところで、各部署の文書庫から上院文書館に移管される。上院文書館の職員数は15人であった。同館は保存スペースが不足してきていることから、それに合わせて文書の評価選別の基準を少しずつ変更しているようである。長期的にみれば、ある時期には保存されている文書と同様のものが時期によっては廃棄されうることになり、妥当な基準変更とはいえない。

下院文書は、作成、取得から5年が経過したところで、各部署の文書庫から下院文書館に移管される。法律上は、永久保存の決まった文書は下院文書館から国家総合文書館へ移管されるが、先述のとおり法律制定後に実際に移管された例はまだない。移管の際には文書の評価選別が行われるが、どの段階の評価選別であっても、当該文書が元々あった部署の文書庫の職員も、下院文書館の職員も、さらには国家総合文書館の職員もそれに関与する。下院文書館は職員数が3人だけの小規模な施設で、こちらも保存スペースがひっ迫しており、各部署の文書庫から移管すべき文書がすべて移管できているわけではない状態にあった。

③ 国家地区司法文書館

ドミニカ共和国の司法府では、司法区ごとに文書館が設置されており、どれが本館であるわけでもなく並列である。その点はパナマと同様であった。以下、国家地区(首都)の司法文書館を訪問して得た情報を記す。

司法文書は、作成、取得から2~5年が経過したところで、各機関の各部署の文書庫からその所在地域にある司法文書館あるいは国家総合文書館の支館に移管される。したがって、首都にある最高裁判所の文書は当館に移管されるが、同じく首都にある最高選挙裁判所の文書は自機関で管理しており、当館には移管されない。その後、(先述のとおり)作成、取得から50年が経過したところで国家総合文書館本館に移管されることになっているが、2008年制定の法律施行後まだ移管例はない。なお、評価選別はされずすべての司法文書が永久保存となる。当館の職員数は15人だが、アーキビストはひとりもいないようであった。

2. プエルトリコ

(1) 自治領全体の動向―欧州型と米国型の公文書管理のフロンティア―

これまでは、各国の国家レベルの公文書の管理の実情を共通のテーマとして、ラテンアメリカ8カ国を数年にわたって調査してきた。今回は、その調査を(ドミニカ共和国で)引き続き行うことに加え、新たにふたつのテーマを用意した。ひとつは国際機関における公文書管理の実情であり、詳しくは次節で述べるが、もうひとつは一国の領土で自治権が与えられている地域における、公文書管理の面での自治性についてである。後者のテーマに当てはまるフィールドとして、今回は米国の自治領であるプエルトリコを選択し、調査を行った。

結論としては、プエルトリコの公的機関の文書はプエルトリコ内で管理され、米国本国には移管されない体制になっている。この事実は、プエルトリコ内の各文書館と米国本国の国立文書館の双方から調査して確認することができた。なお、今回訪問することはできなかったが、プエルトリコの民間団体や個人に関する文書は、米国本国の国立文書館のニューヨーク支館にもある程度の分量が収蔵されている。

公文書管理についても自治性が確立されていることがわかったうえで、先述のドミニカ共和国と同様に領内での公文書管理体制を調査した。プエルトリコの公文書管理における中心的存在となる施設は、プエルトリコ総合文書館である。同館は、プエルトリコの地方自治体を除く公的機関の行政文書、司法文書の中で永久保存の決まったものの最終移管先となっている。立法文書も2011年より前までは総合文書館に移管されていたものの、2011年に立法府内に歴史文書館が設置され、永久保存の立法文書の最終移管先となった。したがって、立法文書は立法府内で管理されるようになった。

総合文書館の職員によると、プエルトリコ最高峰の高等教育機関であるプエルトリコ大学にアーカイブズ学(公文書管理に関する学問)のコースが設置されているものの、そこでアーカイブズ学を修め文書館の職員になる人は少数派で、米国本国やスペインで学ぶ人の方が多数派であるようだ。スペインなどの欧州の国々では、公文書管理の体制が早い段階で確立していた一方、米国では20世紀になるまで文書館のような施設は誕生しなかった。ただ、ひとたび欧州から公文書管理の手法が導入されると、各機関での業務の効率性をふまえた独自の手法が構築されていった。そのため、スペインと米国ではあらゆる面で手法が異なっている1。アーキビストの主たる学びの場がそのようなふた国に分かれるプエルトリコでは、各館の職員が自分の学んだ国で主流の手法をもとに、場合によっては他国の手法も取り入れつつ個別の管理手法が導入されているようだ。言い換えれば、総合文書館による各館への指導などは積極的には行っていないようであった。

米国と欧州の要素が混在する状況は、プエルトリコが歴史的にスペインの影響を多大に受けながらも、現在は米国領であるからこそみられるといえるが、公証人文書の管理についても同様にプエルトリコならではの特徴がある。世界の公証人は、文書の認証、宣誓供述書の作成のみが職務とされている米国型の公証人(Notary Public)と、これに加えて公正証書の作成も公証人の職務権限とされているラテン系の公証人(Notary)とに分かれている2。ラテン系の公証人の国際連携機関である公証人国際連合(UINL)のウェブサイト3によると、米国本国が加盟していない一方でプエルトリコは加盟しているので、プエルトリコは米国領ながら、米国型ではなくラテン系の公証人制度を採用しているといえる。ラテン系の公証人制度は、権限が多く付与されている分、米国型の公証人制度を採用している国や地域に比べれば、公証人文書の重要性も当然ながら高いといえる。実際のところ、プエルトリコでは13の公証地域ごとに文書館が置かれ、公証人文書が管理されている。一方、米国本国では伝統的にラテン系公証人の制度が根付いている地域(ルイジアナなど)を除くと、公証人文書を扱う文書館はあまりない。そのため、そもそも公証人文書館が存在する時点でプエルトリコは米国本国の大部分の地域とは異なる特徴をもっているといえる。サンフアン地区公証人文書館の職員によると、ラテン系の公証人制度であるプエルトリコにおいては、デジタル化した文書ではなく原本を維持管理することが求められており、それが米国型の公証人制度下の公証人文書の管理方法との違いであると説明してくれた。

(2) 各館の概要

① 総合文書館

先述のとおり、総合文書館はプエルトリコの地方自治体を除く公的機関の行政文書、司法文書の中で永久保存の決まったものの最終移管先となっている。行政文書は知事の任期満了時に評価選別を経て総合文書館に移管されるが、その代わりに知事の名を冠した図書館を設立し、そこで保存する場合もある。後者は米国本国でみられる手法で、米国的な要素が垣間見えた。財務文書や司法文書は、各機関の中間書庫で20年ほど保存された後、評価選別を経て総合文書館に適宜移管される。収蔵規模は厚さにして80~90キロメートルで、アーキビストは5名いる。

プエルトリコや先述のドミニカ共和国を含むカリブ地域は、その地理的、気候的特性から、海や潮風、ハリケーンなどの影響で資料の破損、劣化に悩まされやすく、その対処として文書のデジタル化に力を入れる動きがある。しかし、当館の収蔵資料はほとんどデジタル化されていないのが現状である。

② 立法文書館

プエルトリコの立法府は二院制である。ただ、メキシコや先述のドミニカ共和国とは異なり、文書館はひとつだけ設置されており、両院から文書が移管されている。先述のとおり、行政府と司法府の永久保存文書の最終移管先が同じ施設(総合文書館)である一方、立法文書で永久保存のものは立法府内の文書館に収められる。文書は各部署で4年間保存された後、立法文書館に移管される。評価選別はなく、全文書が移管される。職員は8人で、うちアーキビストはひとりだった。

立法文書館の文書は、すべてデジタル化して公開されている。2011年に開館したばかりで、遡及してデジタル化すべき資料があまりない分、先述の総合文書館とは異なるようである。

③ サンフアン地区司法文書館

プエルトリコの司法府もパナマや先述のドミニカ共和国と同様、司法区ごとに文書館を設置している。今回は主都サンフアンにある文書館を訪問し、調査を行った。文書は裁判が終わり次第当館にすべて移管され、文書の種類や内容によって幅があるが7~55年経過した後に、永久保存が決定したものは総合文書館に移管される。職員によると、具体的な数値は不明だが、総合文書館に移管される文書の割合はかなり低いようである。職員数は54人で、うちアーキビストは4人であった。

④ サンフアン地区公証人文書館

公証人文書館をとりあげるのは前報告のグアテマラに続いて2例目であるが、グアテマラと異なり、プエルトリコは領内すべての地区の公証人文書がひとつの文書館に移管されるのではなく、先述のとおり13の公証地域ごとに公証人文書が管理されている。なお、かつては総合文書館が最終移管先となっていたため、60年以上前の古い公証人文書は総合文書館に収蔵されている場合もある。当館を利用するうえでは、ほかの地区の文書も取り寄せが可能である。今回は主都サンフアンにある文書館を訪問し、調査を行った。

ひとつの文書館がカバーする地区の規模だけでなく、対象となる文書の種類についてもグアテマラとの違いがみられた。グアテマラの公証人文書館の正式名称は”Archivo General de Protocolos”で、厳密には「公正証書原簿(Protocolos)」の文書館と謳っている。一方プエルトリコの場合、名称は”Archivo Notarial”(公証人文書館)であり、実際のところ公正証書原簿だけでなく「謄本(Registros de testimonios)」や「月次記録(Índices mensuales)」も受け入れ、管理している。

法律上は、公証人文書は1年に一度当館に移管されることになっているが、進行中の案件が含まれているなど、公証人が業務上引き続き必要である場合は移管されない。先述のとおり訪問した文書館はサンフアン地区のものであるため、基本的にはサンフアン地区の文書だけが移管されるが、小規模な地区の文書が整理のために一時的に当館に移管されることもある。公正証書原簿は、グアテマラ同様にすべて永久保存であるが、謄本は30年で廃棄となる。公正証書原簿と謄本は製本して保存する一方、月次記録は製本せずに保存される(写真2)。

写真2 サンフアン地区公証人文書館の収蔵庫(上)。 製本された公正証書原簿や謄本ばかりだが、月次記録も製本されずに保存されている(下)。(筆者撮影)

公正証書原簿も謄本も製本のうえで保存されるが、公正証書原簿はひとりの公証人の1年分で1冊、謄本はひとりの公証人の数年分で1冊という単位で製本されている。プエルトリコ全体で公正証書原簿が約10万冊、謄本が約6300冊管理されている。

職員数はサンフアンの文書館は4人で、サンフアン同様に比較的規模の大きいポンセ地区の文書館も4人ほどであるそうだ。ただ、両館含めどの地区の文書館にもアーキビストは配置されていないようである。そのほか、スペース不足や空調を常時稼働させる財政状況ではないといった問題も抱えている。

3. 米州開発銀行

(1) 文書の管理体制―国際機関としては珍しい(?)各国での分散保管―

先述のとおり、今回は国単位だけでなく国際機関における公文書管理についての調査を新たに試みた。手はじめとして、ラテンアメリカ関連の国際機関の本部が複数ある米国のワシントンDCを訪問した。しかし、結果的に訪問できた国際機関は米州開発銀行のみで、米州機構はスケジュールの都合で訪問が叶わなかった。その代わりに、インターネット上では公開されていない公文書管理に関する規程を入手することができた。

米州開発銀行における公文書管理で何よりも特徴的だったのが、永久保存が決まった文書の最終的な移管先は1カ所ではなく、事務所の所在する各国で個別に管理される点である。これは、1カ所での管理を望むものの移管がされずに散逸しているわけではない。それぞれがばらばらに動いているわけではなく、一定のレコードスケジュールをもとに、文書の評価選別の際にはアーキビストが関与する体制になっている。

先述のとおり、坂口(2016)によると、欧州の一点集中管理に対して米国では「集中管理・分散保管」方式が提唱された。保管場所は1カ所ではなく各部署(事務所)に分散しているものの、その管理は統制されている状態である。米州開発銀行は、この米国式の管理体制を参考にしていると考えられる。安易な考察をすれば、これは米州開発銀行が米国に本部をおいているため、米国式の影響を強く受けたのではないかという仮説が立てられる。また、そもそも国際機関は地理的な分散度合が大きく、集中保管することのコストやデメリットも必然的に大きくなってしまうため、分散保管方式を取っているとも考えられる。しかし、同じく米国、ワシントンDCに本部をおく米州機構の公文書管理に関する規程によると、永久保存文書は最終的に1カ所(同機構の歴史文書館)に移管されることになっており、いずれの仮説も正しくないことになる。たしかに米州開発銀行の職員も、この分散保管方式は国際機関としては特徴的であると述べていたが、米国に本部を構える国際機関としては珍しいのか、あらゆる国際機関と比べても特徴的なのか、仮説を立てるにはさらなる調査が必要であろう。

(2) 文書のライフサイクル、収蔵規模

以下、米州開発銀行本部の公文書管理統括部署の職員へのインタビュー調査から得た情報を記す。

文書は各部署で作成、取得されてから7年が経過すると、アーキビストと各部署の職員で構成されたチームによって評価選別が行われ、文書館に移管されるか廃棄される。移管と廃棄の割合は紙文書と電子文書で差があり、紙の場合は6割ほどが保存される一方で、電子文書で保存されるのは15~20%ほどである。

世界全体で35000箱、5000万点の文書を収蔵している。そのうち、本部の文書が収蔵されているバージニアの文書館には15000箱が収蔵されている。

むすびにかえて

これまで4度の現地調査をとおして、ラテンアメリカ各国の国家レベルの公文書管理事情を調査し、全体の約半分の国々の実情を少しずつながら報告することができた。さらに、本報告では単なる各「国」の実情だけでなく、プエルトリコのような一国の「自治領」や、米州開発銀行のような「国際機関」も新たに調査することができた。今回の新たな試みによって、単に調査単位を多様化できただけではない。これまで、ラテンアメリカ諸国および関連する国際機関を調査する目的を、先進国ほど調査成果が豊富に蓄積されていない発展途上の事例を示すためであると考えていただけであった。しかし今回、プエルトリコや米州開発銀行を調査したことによって、ラテンアメリカが欧州型の公文書管理方法と米国型の公文書管理方法の混在する地域であると認識し、同地域の調査が欧州型と米国型のさらなる比較分析の基礎材料となりうることが再確認できた。

前報告(Vol.35 No.1)では、それまで調査した国々の現状を、①国⽴の⽂書館が国家レベルの公⽂書の最終移管先となっているかどうか、②国内の公⽂書管理を⼀概に指導する役割を担う機関等があるかどうか、そして③国内のアーキビスト教育の有無の3点に着⽬し表にまとめた(Vol.35 No.1、74ページ)。①と②を公⽂書管理体制が将来を⾒据えたものであるかどうかの指標としてひとまとめにしたが、パナマや本稿のドミニカ共和国のような国立の文書館で管理している文書と指導のおよぶ範囲が一致していない国々と、それ以外の国々の差がみえづらくなってしまう。さらに、ペルー、コロンビア、メキシコのように行政文書の枠を超えられていない国々と、チリや本稿のプエルトリコ4のように行政文書以外の公文書も管理できている国々の差もみえず、すべて同じカテゴリーに収まってしまう。そこで本稿では、①と②に焦点を絞ったうえでそれぞれ細分化し、両者の相関関係やそれぞれの度合も視覚的に表すことのできる表に組み替え、まとめ直す(表1)。

大半の国々は、国立の文書館が最終移管先となっていない類の文書については、その範囲の大小にかかわらず、別の施設での管理に関与することもできていない。つまり①と②に差がなく、表中では相関図のように斜線の延長上(行列中の主対角線上)に位置している。一方でパナマや(現状の)ドミニカ共和国は、国立の文書館が自館に移管されない類の文書に対してもその管理に関与できており、表中では斜線の延長上(主対角線上)から外れている。ドミニカ共和国については、今後法律とおり立法文書や司法文書も国家総合文書館に移管されるようになれば、大半の国々と同様に管理の指導をするすべての種類の文書の最終移管先としての役割も果たしつつ、その範囲が行政、立法、司法すべての文書におよんだ完全形をなすことができることになる。この点が、他国の取る道とは外れ別路線での完全形をなしていたパナマとは異なる点である。

ただし、ドミニカ共和国では法律上、各機関が自前の文書館を構え、所定の条件を満たしたうえでその文書館を自機関の文書の最終移管先とすることもできる。その制度によって、現状と変わらず各機関で文書が保管され、パナマと同様の状況で落ち着く可能性もある。ラテンアメリカ内の先進的なモデルケースが2タイプに分かれるのか、あるいは1タイプに収斂するのか、今後のドミニカ共和国の動向は注目に値する。

当然だが、あくまでもこれまで調査した国々だけをふまえたまとめであるため、未調査あるいは調査不十分なほかの国々を調査すると、表1のどの枠にも収まらない事例が存在することが判明するかもしれない。今回よりはじめた国際機関の調査とともに、今後も継続してきたい。

(出所)前報告および各文書館でのインタビューを通じて得た情報をもとに筆者作成

本文の注
1  欧州型と米国型の違いの具体例として、欧州の出所単位を基本とした文書の編成に対する米国のレコード・グループ単位の編成、欧州のレジストリ・システムに対する米国のファイリング・システムによる文書の配列・検索、さらには欧州における公文書の一点集中管理に対する米国における集中管理・分散保管などが挙げられる。坂口(2016)がこのテーマに明るい。

2  日本公証人連合会ウェブサイト(http://www.koshonin.gr.jp/system/s03/s03_01, 2019年7月3日アクセス)より引用(用語統一のため一部修正)。

3  https://www.uinl.org/notariados-miembros(2019年7月3日アクセス).

4  ここでは国とみなして他国と比較する。

参考文献
 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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