Latin America Report
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2019 Volume 36 Issue 1 Pages 71

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2013年、アルゼンチン人のフランシスコ教皇が新ローマ教皇に選ばれた。欧州以外から教皇が選出されるのは1300年ぶりであり、中南米初のローマ教皇である。フランシスコはローマ教皇のシンボルだったきらびやかな法衣や宝石を身に着けず、バチカンでの住居も歴代の教皇の教皇宮殿ではなく、枢機卿の宿泊所を使用する。

本書はフランシスコ教皇の生い立ち、近代を中心としたバチカンの歴史と教皇に選出されるまでのフランシスコの活動、ラテンアメリカで生まれた解放の神学とバチカンの関係をまず概説する。そしてカトリック教会が直面する課題として、伝統的なカトリックの牙城である欧州とラテンアメリカでカトリック信者が減少し、プロテスタントや福音派が勢力を伸ばしていること、逆にアジアやアフリカでカトリック信者が増加していることを指摘する。とくにフランシスコ教皇は積極的にバチカンの要職にアジアやアフリカ出身者を任命している。これらに関連してアジア・アフリカ諸国とバチカンの関係を論じる。

最後に今日バチカンが直面する重大な問題として、バチカン銀行のマネーロンダリング疑惑、聖職者による信者に対する性的虐待疑惑、妊娠中絶を認めるか、女性聖職者を認めるか、などの問題を紹介する。性的虐待問題は、聖職者の婚姻禁止規定が関係していると本書では示唆されている。この問題は数十年あるいはそれ以上にわたって隠蔽されてきた。

これらの課題については、バチカン内部の保守派の反対が強いとされる。女性聖職者を認めるか、聖職者の婚姻を認めるかどうかの問題の背後には、聖職者を希望する男性が減少し続けている現実がある。本書を読むと、時代の流れや価値観の変化に合わせようとする改革派と、伝統を守ろうとする保守派がバチカン内で常に対立してきたことがわかり、これらの改革も容易でないことが想像できる。

新書版であるが内容は多岐にわたり、バチカンの歴史と現在の課題が深く関連していることを理解しつつ読み進めることができる。ラテンアメリカ以外の地域の話題も多く含まれているが、ラテンアメリカ出身の現教皇をとりあげていること、ラテンアメリカ地域はそもそもカトリックが圧倒的に強い地域であることから、ラテンアメリカに関する記述が多い。信者ではない著者は、可能なかぎり客観的な執筆に努めたと思われ、宗教的に論争の多い問題にも果敢に筆を進めている。ラテンアメリカの文化の深層に根付くカトリックを総合的に理解できる好著である。

 
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