2019 年 36 巻 1 号 p. 72
キューバに日本人が初めて移住したのは1898年であり、昨年2018年にキューバでは移住120周年が盛大に祝われた。本書はもともと、『ゲバラの国の日本人―キューバに生きた、赴いた日本人100年史』というタイトルで2005年に翻訳出版されたものを、移住120周年に合わせて再版したものである。今回は新たに渡邉優前大使の序文と、古屋圭司日本キューバ友好議員連盟会長の「復刊によせて」が加えられ、新資料を基に一部改訂されている。
本書の価値は、キューバの外交官であった著者たちが、1990年代にはまだ存命であった数名の日系人一世にインタビューし、キューバ移住の理由、移住後の生活や仕事の様子、中でも第二次世界大戦中の日系人収容所での生活について語ってもらっているところである。
収容所での生活の厳しさについて、一世の人々は出所後家族に何も語らなかったために、従来知るのが難しかった。本書では、収容中に書かれた日記を子孫から見せてもらった著者たちが、妻や子供たちから引き離された厳しい生活の中で、どのように助け合い、耐え抜いたかが具体的に描かれている。同じように収容されたイタリア人移民たちは、厳しい収容生活に抗議して暴動を起こしたそうだが、日系人はじっと耐え続けたそうである。
1920年代の砂糖ブームの時代には、お金を貯めて故郷に錦を飾ることができた日系人もいたが、大多数はそこまで蓄財できずキューバにとどまった。第二次世界大戦後、収容所から出られた人々は、戦前に築いたすべての財産を没収されていたために、再び一からの出直しとなり、ほとんどの人は最低賃金以下の稼ぎしか得られない農場や工場で働くしかなかった。それでも敗戦した日本の親族や知人の状況がさらに悪いと知った日系人たちは、倹約して故郷に仕送りをしたという。
1959年のキューバ革命後、初めて外国籍の人々に職歴をきちんと計算する法律が制定された。革命前に短期労働契約や臨時雇用でしか働けなかった日系人が、1979年のこの法律のおかげで、それらの職歴も算入できることになった。年金額計算のための勤続年数に革命前の労働が職歴として算入され、熟練労働者としてさらに上の職階に上がれるようになったという意味と思われる。革命前まで差別されてきた日系人一世が、革命政府を指して「外国人にこんなに親切にしてくれる人たちをみたことがない」と話したというエピソードは、毀誉褒貶にさらされるキューバ革命の正の面を示していて興味深い。筆者自身も個人的に知る日系人も何人か出てきているが、なかなかこのような深い話を聞く機会はなく、非常に感銘を受けつつ読んだ。一読をお勧めする。