ラテンアメリカ・レポート
Online ISSN : 2434-0812
Print ISSN : 0910-3317
資料紹介
Javier Corrales. Fixing Democracy: Why Constitutional Change Often Fails to Enhance Democracy in Latin America
坂口 安紀
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2019 年 36 巻 1 号 p. 76

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憲法は、国の政治経済社会のありかたや国民の生活を規定し、それを支える根本的制度である。憲法は国家の諸権力の権限を規定するため、短期的には時の政権の継続性、中長期的にはその国の政治的安定や民主主義の定着を左右する。一方で、政治経済社会が大きく変化した場合、それにあわせた憲法の変更や修正が必要になることもあるし、国がなんらかな困難な状況にあるとき、それを克服するために憲法の変更や修正がひとつの手段として要請されることもある。

本書は1980年代以降のラテンアメリカにおける憲法の変更・修正をとりあげ、どのような場合にそれが試みられ、そして実現するのか、またその結果として大統領の権限を強化・制限するような変更が行われるのはどのような場合か、といった問いについて検証する。そのため筆者は、計量分析、およびベネズエラ、ボリビア、エクアドルの3カ国の詳細なケーススタディとその比較を組み合わせる。

これらの問いを検証するにあたり筆者が注目するのは、現職大統領と反政府派の間のパワーバランスである。憲法変更・修正の第一歩である制憲議会設置について、筆者は、1980年代以降のラテンアメリカでは以下ふたつの場合に制憲議会が設置されてきたことを示す。ひとつは、経済危機や大統領の辞任など政治経済的危機が存在し、かつ現職大統領と反政府派とのパワーバランスが拮抗しているか、前者にとって有利でない場合である。もうひとつは、現職大統領が権力拡大の強い意志をもち、かつ制憲議会において圧倒的多数を獲得できると予測する場合である。そして、ひとたび憲法の変更・修正が行われた場合、それが大統領の権限を強化する内容か否かは、現職大統領と反政府派の間のパワーバランスの不均衡の程度によって規定される。パワーバランスが前者に大きく傾いている場合、権力集中を促すような変更が行われる。大統領は反政府派勢力と調整、妥協する必要がなくなり、その結果反政府派の不満が高まるとともに二極化が進み、結果的に政治の不安定化を招くと筆者は結論づける。

近年ベネズエラやボリビアでは、憲法改正案が国民投票によって否定されても現職大統領がそれを無視、あるいは憲法解釈を歪曲させることで、大統領再選や社会主義を事実上国是とするような変更を行ってきた。しかしそれらは例外であり、大半のラテンアメリカ諸国において憲法改正が制度変更の正統な手続きであることには変わりがない。本書はそのプロセスにおける諸条件について、ふたつの方法論を組み合わせることで説得的議論を展開している。

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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