Latin America Report
Online ISSN : 2434-0812
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2019 Volume 36 Issue 1 Pages 77

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ラテンアメリカでは、2000年代にみられたピンク・タイドと呼ばれる左派政権の時代ののち、2010年代には右派政権への揺り戻しや強権的な政権がみられるようになった。そのため、ピンク・タイドの時代に政治と強く結びつき、様々な権利を獲得した社会運動は、今日受難の時代を迎えている。しかしながら、かつて新自由主義の時代が訪れた時にも社会運動は強く生きのびたように、今日も社会運動は各国で声を上げ続けている。本書は、そのような今日の社会運動に関わる人々の「声(Voice)」を豊富なインタビューから明らかにし、ラテンアメリカの社会運動の現状を伝えるジャーナリスティックな一冊である。

本書の最大の特徴は、膨大なインタビューを元に社会運動の現状を紹介している点にある。インタビュー対象者は、社会運動のリーダーや活動家のみならずジャーナリストや研究者も含まれており、計74名にものぼる。大半のインタビューが2016年から2018年の間に行われており、直接的な声から社会運動の最新の動向を知ることができる。第2の特徴は、多岐にわたるイシューに関する社会運動が取り上げられている点にある。女性、先住民、国家の暴力といったラテンアメリカの社会運動に古くからみられるイシューから、LGBTやウェブメディアといった比較的新しいイシューまでカバーされている。関心のあるイシューについてのみ最新情報を得たいという場合にも有用な一冊であろう。

社会運動に関わる人々の「声」には、自らの訴えを言い切ることの強さが感じられる一方で、運動の立ち位置、目標、戦略をめぐる葛藤もまた読み取ることができる。法制度を変えることが先なのか、人々の考え方や慣習を変えることが先なのか。政治と結びつくべきなのか、政治とは結びつかないようにすべきなのか。声を上げること自体が重要なのか、声を上げた先の成果が重要なのか。プロセスを重視するのか、結果を重視するのか。

研究対象として社会運動を分析する場合には、社会運動の当事者が直面する葛藤のふたつの側面のうち、片方の側面をより重要とする立場を選び分析することが多い。しかし、社会運動に関わる人々自身こそ葛藤の中にいるのであり、研究でも可能な限りもう片方の側面にも目を向けることが彼らの「声」に向き合うことではないかと思わされる、そんな一冊である。

 
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