ラテンアメリカ・レポート
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Print ISSN : 0910-3317
資料紹介
Nobuaki Hamaguchi, Jie Guo and Chong-Sup Kim. Cutting the Distance: Benefits and Tensions from the Recent Active Engagement of China, Japan, and Korea in Latin America
浜口 伸明
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2019 年 36 巻 1 号 p. 78

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アジアとラテンアメリカの経済交流が緊密化しない理由として、地球を半周する長い距離がつねに挙げられる。しかし、輸送と通信の技術進歩のおかげで、経済活動に与える距離の影響は数十年前よりも格段に小さくなっている。実際に中国で増大する資源・食料需要とビジネスのグローバル化により、両地域の間の貿易投資額は飛躍的に伸びている。本書のタイトルは、距離の束縛から逃れて両地域の経済交流がいっそう緊密になるという期待を込めたものである。

本書では日中韓にいる3人のラテンアメリカ研究者がそれぞれの国とラテンアメリカの経済関係を論じている。ソウル国立大学校大学院国際学研究科教授Kim Chong-Sup(金鍾燮)は、韓国ラテンアメリカ学会(LASAK)前会長で韓国を代表するラテンアメリカニストである。シカゴ大学で経済学の博士号を取得した後、メキシコのITAMで6年間の教育研究歴があり、とくにメキシコおよび中米に造詣が深い。彼は近年の韓国とラテンアメリカの貿易関係はグローバル・バリューチェーンの形成やインフラプロジェクトに向けて直接投資が増加しているが、その分野は韓国が高い競争力を有する一部の工業製品に集中し、多様性が欠けていることを指摘している。

北京大学国際学院副教授のGuo Jie(郭洁)は中南米の外交、政治、国際関係を専門とし、客員研究員として米国、ペルー、ブラジル、アルゼンチン、メキシコに滞在した経験をもつ気鋭のラテンアメリカニストである。彼女は、資源調達に関心を向ける中国の対ラテンアメリカ経済関係は確立した戦略に基づいたものではなく、ラテンアメリカ側も戦略的選択眼を持たず手当たり次第に対中関係を量的に拡大しようとしていることから、中国がラテンアメリカと友好的な関係を強めるためには貿易投資関係の戦略的多角化が必要と指摘している。

10年前まで日本はラテンアメリカでアジアを代表する存在であったが、近年中国のプレゼンスはそれをはるかに凌駕している。日本政府はこれを強く意識し、2016年の安倍首相訪問時の政策スピーチで存在感の回復を目指す方針を表明した。筆者(浜口)の担当章は、長い歴史を持つ日本の対ラテンアメリカ関係は、これまでの信頼関係において韓国、中国よりも先んじているが、韓国の財閥系企業が見せる積極性や中国の圧倒的なボリューム感を欠いていることから、輸出および投資の質を差別化する競争戦略で臨む必要があることを論じている。

本書は、アジアがラテンアメリカとの距離をさらに縮めることに寄与する方策は、日中韓がそれぞれに抱えるグローバル化の課題の克服にほかならないことを示唆している。

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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