ラテンアメリカ・レポート
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情勢報告
ペルーにおける国会解散
磯田 沙織
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2020 年 36 巻 2 号 p. 85-90

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要約

本稿はビスカラ政権下における国会解散について、憲法の規定、国会解散までの経緯およびその後の憲法裁判所の対応を詳述したものである。2016年の大統領選挙においてクチンスキが当選したが、決選投票でクチンスキに敗れたケイコ・フジモリの所属政党が国会の多数派を占めることになり、大統領と国会の対立関係が始まった。このため、国会による二度目の大統領弾劾裁判中にクチンスキは辞任し、副大統領から大統領に昇格したビスカラの政治改革も国会によって阻まれてきた。硬直状態を打開するため、ビスカラは憲法の規定を解釈することで国会解散を正当化し、軍や大多数の有権者もビスカラの決断を支持した。解散された元国会議長が憲法裁判所に違憲判断を求めているが、その決断が先送りされたまま、国会選挙が実施される見通しである。有権者からの支持率が高いビスカラに対して、憲法裁判所が違憲判断を下す可能性は低いものの、正式な判断までは政局を注視していく必要がある。

はじめに

本稿では、ペルーにおける国会解散に関して、憲法上の規定、解散に至った経緯、憲法裁判所の対応を明らかにする。

ペルーの2016年選挙によって大統領に当選したクチンスキ(Pedro Pablo Kuczynski)の所属政党である「変革のためのペルー国民」(Peruanos por el Kambio;以下PPKと略す)は国会で第3党となり、大統領と対立するフジモリ派の政党である人民勢力党(Fuerza Popular;以下FPと略す)が議席の過半数以上を獲得した。困難な国会運営を強いられたクチンスキは、2018年3月の二度目の弾劾裁判中に辞任を表明したため、憲法115条の規定にのっとり、副大統領だったビスカラ(Martín Vizcarra)が大統領に就任した。ビスカラも議会で少数派という立場は変わらなかったが、自身に対する支持率が下がるたび汚職撲滅対策を打ち出し、国会がその審議を拒絶する場合は国会解散も辞さないという対立姿勢を有権者にアピールすることで、有権者の支持を勝ち取ってきた。たとえば、2018年8月に憲法改正案を提出した際は、改正案を審議しない国会に対して、憲法の規定に基づく国会解散カードをちらつかせ、12月の国民投票を実施させた。

また、2019年5月に議員特権の撤廃を含む法案を国会で否決されると、大統領および国会議員の任期を短縮し、2020年に総選挙を実施できるよう憲法改正を求めた。同年9月に国会が憲法改正案を違憲と判断すると、ビスカラは憲法裁判所(Tribunal Constitucional)判事の選出手続きの中断を求め、それも否決する場合は国会を解散すると明言した。しかし、国会は判事の選出手続きを続行したため、9月30日にビスカラは国会解散を宣言した。この大統領の決断に対し、国会が大統領の職務の一時停止を宣言したため、大統領と国会の対立関係は最高潮に達したが、大多数の有権者だけでなく、軍がビスカラ支持を表明した(図1参照)。その結果、政局はビスカラに有利な展開で推移しており、2020年1月26日に国会選挙が実施される見込みである。

(出所)“Opinión data-15 de octubre del 2019.”

そこで本稿は、大統領に国会の解散権を付与している1993年憲法の規定を確認し、解散に至った経緯として大統領と国会との対立関係を詳述する。次に、国会解散後の世論調査と10月末日までの憲法裁判所の対応を対比させることで、今回の国会解散は大多数の有権者の支持を得ていることを明らかにする。

1. 憲法上の規定

ペルーは大統領制を採用している国であるが、1993年憲法1第130条から134条にかけて、国会が内閣を信任しなければならないと同時に、同一政権下において内閣に対する不信任決議が2度採決された場合は大統領が国会を解散する権利を持つことが以下のように規定されている2

(1) 第130条によれば、大統領が内閣を組閣した際、30日以内に首相は全大臣とともに国会へ赴き、政策について説明した後、国会が信任決議を行う3

(2) 第131条によれば、定数15%以上の議員が要求する場合、国会は大臣に対して書面で説明を求めることができ、3分の1以上の議員が要求すれば、国会は大臣に対する証人喚問を実施できる。

(3) 第132条によれば、証人喚問後に25%以上の議員が要求すれば、大臣に対する辞任勧告に関する審議が開始され、定数の過半数以上の議員が賛成すれば大臣に対して辞任を勧告できる。辞任勧告が可決された場合、その大臣は辞任しなければならない。また、首相によるイニシアティブのみによって内閣に対する信任決議案を提出できる。

(4) 第133条によれば、首相は内閣に対する信任決議案を国会に提出することができ、否決された場合、内閣は総辞職しなければならない。

(5) 第134条によれば、同一政権下において、国会が内閣に対する信任決議を二度否決した場合、大統領は国会を解散する。国会選挙は解散後4カ月以内に実施される。任期の最終年に大統領は国会を解散できない。解散後も常任委員会は継続され、その委員会を解散することはできない。この規定以外に国会を解散する手段は存在しない。

1993年憲法が施行された後、これまでに大統領が国会を解散した例はないが、国会が大臣に対する不信任案を可決した例は数多い。とくに、大統領の所属政党が国会で第一党とならず、その他の政党との協力関係が破綻した後に、国会が次々と大臣を辞任させることで、政権そのものを弱体化に追い込んできた。たとえば、クチンスキ政権下では、不信任決議等によって大臣3名を辞任させ、2017年9月にはサバラ(Fernando Zavala)内閣の信任決議案を否決し、最後はクチンスキも辞任に追い込んだ[磯田2018, 30]。

しかし、クチンスキの辞職後に副大統領から大統領に昇格したビスカラは、国会において憲法改正案やその他の法案の審議が滞った際、首相に内閣の信任決議案を提出させ、国会を解散することも辞さないという強い姿勢を明言してきた。たとえば、2018年9月19日も内閣の信任決議案を提出し、その際は国会がそれを可決したものの、今回は国会が信任決議案を審議している最中に国会の解散という発表に至った。以下、解散までの経緯を詳述する。

2. 解散に至った経緯

2018年3月23日にビスカラが副大統領から大統領に昇格した後、政治改革によって支持率の引き上げを図りたい大統領と、そうした改革法案の審議を滞らせるFPとの間で対立が深まり、最終的にはビスカラが国会解散を宣言することとなった。

大統領就任後のビスカラは、2018年7月に国家司法審議会(Consejo Nacional de la Magistratura;以下CNMと省略)委員による汚職疑惑により、支持率低下に直面した(図1参照)。そこで、ビスカラは支持率の回復を図るため、2018年7月28日、大統領に昇格して初めての独立記念日のスピーチで、憲法を改正することで汚職を取り締まるべきであると主張し、8月2日に汚職撲滅対策や二院制の復活を含む憲法改正案を国会に提出した。しかし、国会では改正案の審議が開始されなかったため、9月19日に首相が早急の審議を求めるための内閣の信任決議案を提出した。その際も、ビスカラは信任決議案が否決されれば、憲法第134条に基づき国会解散も辞さないと明言していた。同日中に信任決議案を可決した国会は憲法改正案のうち二院制に関する条文を修正のうえ10月4日に可決したため、ビスカラは10月8日、議会によって修正された項目については否決することを国民に呼びかけた。12月9日に実施された国民投票では、ビスカラが否決を求めた二院制の復活は90%の有権者によって反対され、その他の項目は80%以上の支持を得て賛成された[Isoda 2019:52-53]。

国民投票によって汚職撲滅に関する規定が憲法に盛り込まれたものの、国会との対立は継続し、ビスカラの改革は停滞した。そこで2019年4月11日、ビスカラは国会議員の不逮捕特権や不起訴特権剥奪を含む一連の政治改革法案を国会に提出し、速やかな審議を求めた。国会は国会議員の特権剥奪についての法案を5月16日に廃案としたため、ビスカラは現状の国会では政治改革は進まないと主張し、7月28日の独立記念日のメッセージで大統領および国会議員の任期短縮を求める憲法改正案を提案した。9月26日、国会の憲法委員会が国会議員の任期短縮に関する憲法改正案を違憲と判断すると、ビスカラは即座に内閣信任決議案を国会に提出すると公表し、否決されれば国会を解散すると主張した。9月29日には、翌日中に内閣信任案が審議されなければ、その時点で国会から否決されたと解釈し、国会を解散するとまで踏み込んだ発言をしていた。

9月30日午前、首相は憲法裁判所の判事手続きの延期を求めて内閣の信任決議案を提出したが、国会は同日午後、オラエチェア(Pedro Olaechea)国会議長の従弟を新しい判事に選出した。同日夕方から国会は内閣信任決議案の審議を開始したが、その採決中にビスカラが国会を解散すると宣言した4。その後、国会は内閣信任を決議し、信任決議案が否決されていなかったにもかかわらず国会解散を宣言したビスカラに対して、モラルの欠如を理由とした1年間の職務停止を決定した5。これに伴い、アラオス(Mercedes Aráoz)が副大統領職を辞任して暫定大統領に昇格する就任式を国会で実施したが、ビスカラは解散された国会による一連の行為は無効であるという理由でこの決定を無視した。

むすび(憲法裁判所の対応状況)

ビスカラの国会解散宣言により、大統領と国会の対立が激化したものの、大多数の市民はビスカラを支持し、国会解散前と比較するとビスカラに対する支持率が31ポイントも上昇した(図1参照)6。10月1日、三軍の指揮官がビスカラと会談し、ペルーの大統領はビスカラであると明言した後、アラオスは、国会解散の合憲性について憲法裁判所の判断に委ねると発表した米州機構の決定を理由に、暫定大統領に留まり続けることはできないと表明し、辞任した7。その結果、ビスカラの続投と2020年1月26日の国会選挙の実施が既定路線となった。国会解散後も常任委員会の委員長に留まった元国会議長のオラエチェアは、10月10日に憲法裁判所に対して、ビスカラによる国会解散宣言は違憲であり、内閣は国会に信任決議案を提出することはできないという二点を訴えた8。10月29日、憲法裁判所はオラエチェアの訴えについて審議を継続するが、2020年の国会選挙に向けた準備を実施するよう、各政党および有権者に向けて声明を発表した。10月末日の段階ではオラエチェアによる訴えは却下される見込みであるが、今後の政局を注視していく必要がある。

本文の注
1  “Constitución Política del Perú - 1993” (http://www.pcm.gob.pe/wp-content/uploads/2013/09/Constitucion-Política-del-Peru-1993.pdf, 2019年11月11日アクセス) .

2  1979年憲法下では二院制であったが、1993年憲法から一院制に代わり、現在の議員定数は130名である。また、「Consejo de Ministros」を直訳すると「閣僚評議会」となるが、本稿では便宜上「内閣」と訳している。

3  「Presidente del Consejo de Ministros」とは閣僚を束ねる長であるため、厳密には首相ではないが、本稿では便宜上「首相」と訳している。

4  “Martín Vizcarra: lee el mensaje completo con el que se anunció la disolución del Congreso” El Comercio, 30 de septiembre, 2019 (https://elcomercio.pe/politica/martin-vizcarra-el-mensaje-completo-con-el-que-anuncio-la-disolucion-del-congreso-peru-cuestion-de-confianza-cierre-del-congreso-mensaje-a-la-nacion-noticia/, 2019年10月1日アクセス).

5  “Congreso declara inaplicable decreto supremo de Vizcarra que disolvió el Legislativo” El Comercio, 1 de octubre, 2019 (https://elcomercio.pe/politica/congreso/congreso-declara-inaplicable-decreto-supremo-de-vizcarra-que-disolvio-el-legislativo-noticia/, 2019年10月1日アクセス) .

6  2019年10月に実施された世論調査では、85%がビスカラによる国会解散を支持し、76%が国会解散は憲法の規定に則ったものであったと回答している。また、ビスカラに対する支持率も、国会解散前の48%から79%に急上昇している(“Opinión data-15 de octubre del 2019” Ipsos-Apoyo, Online (https://www.ipsos.com/sites/default/files/ct/news/documents/2019-10/opinion_data_octubre_2019.pdf, 2019年11月11日アクセス).

7  “Fuerzas Armadas del Perú respaldan a Martín Vizcarra” La República, 1 de octubre, 2019 (https://larepublica.pe/politica/2019/10/01/fuerzas-armadas-vizcarra-recibe-el-respaldo-del-ministerio-de-defensa-cierre-del-congreso-mdga/, 2019年10月4日アクセス) . “La carta con la que Mercedes Araoz renunció a la vicepresidencia de la República” El Comercio, 2 de octubre, 2019 (https://elcomercio.pe/politica/congreso/mercedes-araoz-renuncio-a-la-vicepresidencia-de-la-republica-noticia/, 2019年10月4日アクセス) .

8  オラエチェアは国会解散に伴い国会議長を失職したが、常任委員会の委員長としての職は失わなかった。

参考文献
  • 磯田沙織2018.「ペルーの弾劾裁判に関する一考察――クチンスキの事例を中心に――」上智大学イベロアメリカ研究所『イベロアメリカ研究』40(1), 23-38.
  • Isoda, Saori 2019. “Un estudio comparativo de la participación ciudadana del Perú: Entre normas y realidades.” Iberoamericana 41(1), 41-60.
 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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