ラテンアメリカ・レポート
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資料紹介
大澤傑 著 『独裁が揺らぐとき―個人支配体制の比較政治』
舛方 周一郎
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2020 年 37 巻 1 号 p. 71

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独裁が揺らぐとき、体制の崩壊の成否やその型式にはいかなる法則性があるのか。冷戦の終結を境に当然視されてきた自由民主主義体制に疑問が提示されている。もはや定番となったこの言い回しとともに、独裁体制の統治形態に改めて注目が集まっている。確かに独裁という統治方法については、比較政治学のなかでも政治体制論や体制変動論において研究されてきた。しかし、それらふたつの理論を架橋し体制の成立から崩壊をひとつの周期として捉える試みは十分になされてこなかった。本書の目的は、個人支配体制の比較分析を通じて、体制の危機に直面した独裁体制の崩壊の成否と型式のメカニズムの一部を解明することである。

冒頭で掲げられた本書の問いに答えるため、第1章では、そもそも個人支配体制とは何かを説明している。第2章では、分析視角を明確にするため、体制変動研究に関する先行研究を整理するとともに、アクター間の互酬的関係により成立するクライアンテリズムが体制の安定化・不安定化にどのように寄与するのかを論じている。第3章では、個人支配体制下における軍部と政党の役割とは何かを考察し、分析枠組みと理論仮説を構築している。

さらに上記の枠組みを用いて、支配者を頂点とするパトロン=クライアントネットワークが軍部と社会のなかでどのように維持され、崩壊するかを事例で分析している。第4章から第7章では、世界9カ国の事例が選定されるとともに、個人独裁体制を4つに下位分類している。ラテンアメリカ諸国には、反対勢力に議席を割り当てることで競争性を一部剥奪したうえで政治参加を認めた、疑似競争的権威主義型の個人支配体制が存在した。本書では最後まで軍部と反体制勢力が衝突して、下からの革命が達成されたニカラグアと、軍による体制移行が実現したパラグアイが取り上げられている。

本書は、2019年の博士論文を加筆修正し出版されたものである。研究対象としてニカラグアとパラグアイが分析されており、ラテンアメリカに関心のある読者には、地域内でも小規模な国が扱われていることに目がいくだろう。本書のようにひとつの理論的なフレームから比較分析を試みる姿勢は、いかなる要素が政治体制の安定性と不安定性を左右するのか、一国の研究だけでは発見が難しい大局的な視座を高める。その理論的な貢献が、結果として十分に日の目を見なかった先行研究の資料整理にもつながっている。一読をお勧めしたい。

 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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