ラテンアメリカ・レポート
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Print ISSN : 0910-3317
資料紹介
松久玲子 編 『国境を越えるラテンアメリカの女性たち―ジェンダーの視点から見た国際労働移動の諸相』
山岡 加奈子
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2020 年 37 巻 1 号 p. 74

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本書は、近年国際政治研究のなかで話題になっている国際労働移動のなかでも、女性労働者の国際移動に焦点を当てる。1980年代からラテンアメリカの移民について、女性の重要性が注目されるようになった。とくに近年は配偶者などの男性に帯同して移住するケースだけでなく、むしろ主体的に女性が単独で移住を選ぶケースが増えており、それにともないジェンダーの視点から見た新たな課題が生まれている。

序章(松久玲子)で先行研究や理論的枠組みが説明された後、第I部として、ラテンアメリカから先進国への移住に関する5章が掲げられる。続く第II部では、ラテンアメリカ内部の後進地域から先進地域への移住が取り上げられる。

第I部では、1章(中川正紀・中川智彦)がエルサルバドルから米国への女性移住の多様性、2章(北條ゆかり)はニューヨーク地域におけるメキシコ女性の社会活動とエンパワーメント、3章(マルタ=イレネ・アンドラデ=パラ)はメキシコから米国への合法移民、4章(田沼幸子)はキューバからスペインへの移住で起こるキューバ革命と移住先で異なる価値観の相克、5章(深澤晴奈)はラテンアメリカ全体からスペインへの移住をそれぞれ取り上げている。

続くII部では、6章(浅倉寛子)は米国をめざしながらメキシコ北部に滞留する中米からのトランジット移民、7章(松久玲子)が新自由主義的な枠組みに変容したコスタリカへ移住するニカラグア女性の問題、8章(柴田修子)はコロンビアからチリへの移住、9章(宇佐見耕一)はパラグアイなど南米の経済後進地域からアルゼンチンへ移住する女性たちの社会保障を取り上げた。

どの章もラテンアメリカ以外の地域へも適用できるような理論的枠組みを提示したうえで、実際に移民当事者たちへインタビューを行っており、現実のケースについて具体的に知ることができる構成となっている。3章と8章は必ずしも女性の移住を取り上げていないという問題は残るが、現在もっともホットなイシューのひとつである移民問題の最新動向を知ることができるタイムリーな出版である。各章のインタビュー部分では、母国でも困難な境遇に生まれ育ち、女性であるがゆえの不利な条件のなかで生きる人々の姿が描き出されており、移民問題に詳しくない読者でも理解が進む。一読を勧めたい。

 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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