ラテンアメリカ・レポート
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清水透 著 『インディオの村通い40年』
北野 浩一
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2020 年 37 巻 1 号 p. 75

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われわれ地域研究者は、研究対象とどのようにかかわればよいのか。外からの公平な観察者であるべきか、あるいは、対象を本当に深く知るために、限りなく内部者に近い存在になるべきなのか。そもそも地域研究者の役割とは一体何なのか。研究者として現地での調査を始めた頃は、よく考えこんだり議論したりしてきた気がするが、研究者としての日常のなかで、いつしか問うことを止めていたのかもしれない。

「岩波ブックレット」シリーズの小冊子であり、比較的手軽に手に取れる装丁とは裏腹に、本書は地域研究者に自らの立ち位置を問い直すことを迫る一冊である。しかし、その文体は教条的ではなく、筆者の温かく真摯な生き方がダイレクトに伝わってくるもので、読みやすい6つの章からなるエッセイである。研究対象であるメキシコのインディオとの交流を縦軸に、時に現地で起きたスリリングな事件や、筆者のその後に大きな影響を与えたご息女との死別の経験、そして自身の闘病の日々など、40年にもわたるひとりの人間としての足跡が綴られる。

ここで述べるまでもなく、筆者はラテンアメリカ地域研究の第一人者であり、この分野の必読書を多く著してきた。本書からは、その著述活動の基盤として、筆者と現地のインディオとの深い友好的な関係があったことが伺える。逸話のなかには、調査者との関係が調査対象者の社会的な関係性を変容させているところもあり、「過剰」な関係性であるオーバーラポールが危惧されるところもないではない。しかし調査者が対象を深く理解するために関係性を深めれば、一切影響を与えないことはそもそも不可なのであり、むしろ相互の関係性があることを前提として調査をまとめる方が望ましい、という近年の社会調査のトレンドを先取りしてきたともとれる。筆者との関係性で表面化したインディオ社会の「伝統派」と「新興勢力」間の対立という重層性は、ラテンアメリカの社会問題の複雑さを改めて浮き彫りにしている。

本書の読者対象として、ラテンアメリカなど発展途上国の社会や人々に関心がある高校生などの若者がターゲットに入ると思われる。しかし、本書のように、研究者が自らの私的な側面を語る著作は少ないため、これから地域研究者をめざす人にも、また研究者としての日常に忙殺されているわれわれにとっても、貴重な導きの書となろう。

 
© 2020 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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