Latin America Report
Online ISSN : 2434-0812
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2021 Volume 38 Issue 1 Pages 61

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本書は、長年外務省でラテンアメリカの専門家として外交実務に携わり、駐ボリビア大使も務めた筆者による、ラテンアメリカを通史的に扱った歴史書である。その守備範囲は広く、なんとヨーロッパのルネサンスと宗教改革から筆を起こし、スペイン・ポルトガルの植民地時代、独立期、独立後の19世紀の混乱から相対的安定、そして激動の20世紀史を経て現代にまで至る。その筆致は、個々の国の細かな歴史的事実をフォローしつつも、同時に歴史の因果関係を明らかにしようとする意志をもって叙述するものであり、中南米史の初学者にとってはもちろん、個別領域の専門家にとっても得るところが大である。

序章と終章あわせて全11章から構成される本書は、序章で本書の切り口を明らかにしたうえで、第1章でスペイン・ポルトガルの植民地時代、第2章で中南米諸国の独立について「新大陸」を起点に述べられ、第3章でブラジルの独立と国際政治の観点からみた独立運動の展開が説明される。第4章では19世紀の中南米の政治と国際関係の歴史が扱われる。第5章では、第二次世界大戦までの20世紀の中南米史について、米国の動きを重視しつつ描かれる。第6章で戦後冷戦構造ができるまで、第7章で権威主義体制、第8章で中米紛争、第9章で冷戦後の今日の中南米における大きな潮流について叙述される。終章では本書の要約、地理と中南米史の交錯について、最後に筆者の外務省生活の経験から日本の中南米外交のあるべき姿勢が語られている。事実に忠実でありつつも、その記述の取捨選択基準には筆者なりの歴史の見方が提示されているが、本書と類書を分かつ大きな特徴は、国際関係に大きな紙幅を割いている点である。

一点、紹介者が疑問をもったのは、本書の記述の核をなすであろう、タイトルにもある「リアリズム」という言葉の意味である。このリアリズムとは、本書では「現実とか実際とかを重視する」姿勢であり、「言葉が表現の美しさに流れたり、議論が空中戦化したりすることを避け、現実的視点からその国・地域の政治経済や国際関係の動きに目を向けること」であると簡潔に述べられていた。筆者としては本書を読めばその意は自ずと明らかになるということかもしれないが、たとえば「リアリズム」という語が重要な意味をもって用いられる国際政治学においても多義的であるように、難解な言葉でもある。とはいえ、本書は移り変わる覇権国家との関係性のなかで紡がれるラテンアメリカ史に関する通史という類書にはない特徴があり、大変に勉強になった。一読を勧めたい。

 
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