ラテンアメリカ・レポート
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資料紹介
中原篤史 編著 『現代ホンジュラスを知るための55章』
上谷 直克
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2023 年 39 巻 2 号 p. 62

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「はじめに」で記されているとおり、本書は2014年に出版された『ホンジュラスを知るための60章』(桜井三枝子、中原篤史 編著)の「改訂版」ではなく「続編」である。紹介者のように、中南米の特定の国というよりも、自らの関心や時々のニーズに合わせた「テーマ」に沿って、中南米地域の政治を論じる人間からすれば、その最初の手がかりを得るのに、明石書店のこのシリーズは大変重宝する。とくにそこでは、中南米のなかでも比較的メジャーである「南米」の国々よりも、注目を集めにくい「中米」の国々がしっかりとカバーされ、しかも各巻の情報が非常に濃密であるため、なおさら貴重な存在である(注:ただし無責任な要望を吐露すれば、いくぶん情報が古くなっており、もうそろそろ改訂していただけると助かる巻もなかにはある)。

本書の内容を紹介すると以下のようになる。「Ⅰ 自然と都市」では、人口や国土や最近の自然災害に関する最新情報に始まり、主要都市や地域の「いま」が語られる。「Ⅱ 政治」では、とくに近年の国民党政権下の政治問題と、画期的ともいえる2021年の大統領選とシオマラ・カストロ候補の勝利までが論じられる。「Ⅲ 経済」では、いまや大きく「ホンジュラス経済を支えている」といっても過言ではない移民からの郷里送金や、農業生産や輸出の現在、そしてこの国の企業や「起業」の実際について解説される。つづいて「Ⅳ 開発・環境問題」と「Ⅴ 国際問題・移民」は、2014年版にはない新設の大項目であり、これらのテーマが現代ホンジュラスにとっていかに重要な争点であるか、その実態がよく理解できる内容となっている。さらに「Ⅵ ホンジュラスの制度・社会・文化」では、文学や音楽や料理から、教育改革や医療制度までテーマも幅広く論じられ、最後の「Ⅶ 日本とホンジュラス」では、NGOや日本政府の支援策を通じた両国の関係と今後の展望について語られている。

非常にありがたいことに、実は紹介者も本書に2章分ほど書かせていただいた。編者からの要望は、現代ホンジュラス政治を「比較政治学」的な視点から捉えたものをということであったと思う。当初は比較政治体制(変動)論的な方向で構想していたが、いろいろ学ぶうちに、やはり「問題は“国家”である」との思いに至り、本書担当章のような内容に仕上がった。自分の執筆箇所についていえば、出来としてどれほど編者の企図や読者のニーズに沿えているかまったく自信はないが、いずれにせよ、編者のいう、前作と本作の「2冊合わせて『ホンジュラスを知るための115章』」という大プロジェクトに少しでも関与させてもらえて大変光栄に思っている。

 
© 2023 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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