ラテンアメリカ・レポート
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資料紹介
伊藤秋仁・岸和田仁 編著 『ブラジルの歴史を知るための50章』
近田 亮平
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2023 年 39 巻 2 号 p. 64

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本書は、明石書店がシリーズで発刊している「エリア・スタディーズ」の187冊目であり、「ブラジルの歴史的形成の実相を語る入門書的な著書として企画された」ものである。ブラジルに関しては、同シリーズ14冊目の『ブラジルを知るための56章』で初めて取り上げられ、今回の書では、1500年のブラジル「発見」以前から現在までの歴史を形成した出来事やテーマについて、日本とブラジル両国の28名の寄稿者がそれぞれの専門知をもとに執筆している。

編著者の一人である岸和田氏による「まえがき」で始まる本書は、ブラジルの歴史を6つに大別し、50の章とともに17のコラムで構成されている。第Ⅰ部「発見以前」は2つの章と1つのコラム、第Ⅱ部「植民地期」は12の章と2つのコラム、第Ⅲ部「帝政期」は8つの章と3つのコラム、第Ⅳ部「共和制期」は17の章と4つのコラム、第Ⅴ部「軍事政権期」は3つの章と3つのコラム、第Ⅵ部「新共和制」は8つの章と4つのコラム、という編成になっている。また巻末には、ブラジルの歴史を日本語で知ることができる書籍のリスト、および、ブラジル史の略年表が付載されている。

このように各部の章やコラムを列記したのは、ブラジルの歴史を「通史」的に編纂した本書を読んだ後、紹介者が感じたある種の違和感を表したかったためである。各部の章とコラムの数が不均等なことは、区分した時期によって取り上げる(取り上げたい)歴史が異なるからであろう。ただし、各時期の出来事で「通史」に適した章がある一方、対象時期には収まらない「テーマ」を扱った章も少なからずみられる。またコラムに関して、同様のテーマをシリーズ化して取り上げたものが複数あるとともに、内容が「章」と同等な水準の興味深い「コラム」も少なくない。そのため、章とコラムの一部を「テーマ」を基準に再編し、「通史」と「テーマ」に分けた編成の方が、書籍としての構成バランスが均衡化するとともに、読者の理解や関心をより高めたのではないか、というのがはじめに紹介者が抱いた感想であった。

本書が発行された2022年は、ブラジルが独立して200周年となる記念すべき年である。独立200周年を機にブラジルの歴史を初めて、または改めてたどる読者もいるであろう。編成の工夫は「歴史を知るため」シリーズの課題ともいえるが、日本ではあまり知られていないブラジルの歴史を学ぶだけでなく、関連する国や地域をも含む新たな発見に出会ったり再考したりする機会を、本書は読者に与えてくれる。

 
© 2023 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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