ラテンアメリカ・レポート
Online ISSN : 2434-0812
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資料紹介
舛方周一郎・宮地隆廣 著 『世界の中のラテンアメリカ政治』
三浦 航太
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2023 年 40 巻 1 号 p. 77

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本書は、日本語で書かれたものとしては久々の刊行となる、大学での教科書としての使用が想定されたラテンアメリカ政治に関する概説書である。紹介者自身、大学でラテンアメリカ政治の授業を数年担当してきたが、このような内容が盛り込まれた一冊があれば、と抱いていた願望に応えてくれる魅力的な一冊となっている。

教科書としての本書の魅力を3点ほど紹介したい。第一に、具体的な内容に入る前に、ラテンアメリカ政治を概観するという第1章にある。この概観は、各国間比較という横串と、時系列変化という縦串の両方からなされる。様々な指標やデータを示すことで、ラテンアメリカの全体像を捉えつつも、各国間の違いや域内の多様性をうかがい知ることができる。この時点において、自身のイメージと現実の間の違いに気づかされる学生もいるだろう。また、時系列で展開される第2章から第12章の内容を事前に把握することができる。第1章は、初めて学ぶ学生にとって、膨大な初耳だらけの固有名詞の森でさまよわずに学び進めるための重要な案内図となるはずだ。

第二に、本書のタイトルに「世界の中の」とあるように、ラテンアメリカと世界を対比させながら学ぶことができる。具体的には、各章の冒頭で、その時代においてラテンアメリカが世界の中でどのような位置にあったのか、同時期の欧米や日本はどのような状況であったのか説明がなされる。学生の多くはラテンアメリカに対して後進的なイメージを持っているように見受けられるが、欧米や日本も同時代に(あるいは欧米や日本に先んじて)同じ政治・経済・社会課題を抱えていたことが分かれば、そうしたイメージも変わるはずである。また、それまでに学んだ世界史や日本史の知識とも結びつき、ラテンアメリカ政治をより理解しやすくなるだろう。

第三に、専門的な概念のみならず、政治の教科書に登場する基本的な用語の定義についても、一度立ち止まって端的に説明してくれることは本書の大きな魅力である。基本用語が分からないからラテンアメリカ政治も分からない、というのはもったいない。基本用語をきちんと理解することで、ラテンアメリカ政治に対する理解の解像度は上がるはずだ。こうした本書の細やかな配慮は、学生にとって、ラテンアメリカを超えて別の地域の政治を学ぶ際にも役立つに違いない。

本書のウェブサイトと補足情報ブログでは、参考資料一覧、図表の引用一覧に加えて、文中で用いられているデータの詳細や授業の構成案まで示してくれている。これらのサイトは、教える側にとっても学ぶ側にとっても、大変役立つだろう。ぜひ本書と合わせてアクセスされたい。

 
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