2024 年 41 巻 2 号 p. 41-52
アルゼンチンでは1886年以降、法律によって人工妊娠中絶が禁止されていた。中絶合法化を求める運動は民政移管後に始まったが、合法化までに37年もの年月が要された。運動の中心となったのが「合法・安全・無償の中絶の権利を求める全国キャンペーン」であり、LGBT権利運動やNi Una Menos運動の盛り上がりが中絶合法化運動にも勢いを与えた。マクリ政権下で国会審議が開始したがカトリックやペンテコステ派の反対運動で合法化には至らず、フェルナンデス政権下の2020年に人工妊娠中絶法が成立した。現在、中絶処置を行う保健・医療施設は増加しているが、施設数の地域差が著しい。2023年末に誕生したミレイ政権下で人工妊娠中絶法の廃止を求めるプロライフ派の動きは再び活発化しているが、新政権の優先課題は経済再建であり目下のところ中絶問題を取り組む余裕はない。