ラテンアメリカ・レポート
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資料紹介
宇佐見耕一 編著 『ラテンアメリカと国際人権レジーム―先住民・移民・女性・高齢者の人権はいかに守られるのか?』
近田 亮平
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2024 年 41 巻 2 号 p. 75

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本書は、条約や宣言で発せられる国際人権レジームが、ラテンアメリカの社会的脆弱者をめぐる法律や機構の整備に与える影響について明らかにすることを目的の一つにしている。それとともに、その影響が社会的脆弱者の人権保護にどの程度実質的な意味を持つのかも究明している。なお、本書が「社会的脆弱者」として取り上げるのは、本書のサブタイトルにある先住民、移民(難民)、女性、高齢者である。また、編著者は本書の特徴として、分析アプローチが異なる7名の研究者により、マクロとミクロのレベルで課題に対し取り組んでいる点を挙げている。

本書の構成は次のようになっている。編著者(宇佐見耕一)により、「はじめに」と「序章 国際人権レジームとラテンアメリカにおける人権保護」で本書の目的や概要が説明される。そして、「第1章 アルゼンチンにおける高齢者保護と国際人権レジーム」で、社会的脆弱者に関する事例研究が開始される。「第2章 メキシコにおける家事労働者の労働と人権をめぐる権利保障」(松久玲子)と「第3章 メキシコにおける移民/難民の法整備と実態」(柴田修子)では、対象国としてメキシコが取り上げられる。「第4章 国際人権レジームと先住民―ペルーの事例」(村上勇介)、および、「第5章 ペルー南部アマゾン地域、マドレ・デ・ディオス州における違法金採掘問題と先住民社会の現在―2010年代、事前協議枠組みの編成を見据えつつ」(村川淳)では、国としてペルーを対象に、社会的脆弱者として先住民を対象とした事例研究が続く。そして、「第6章 先住民居住区に生きる人びとと国際人権レジーム―コスタリカの事例」(額田有美)と「第7章 ベネズエラにおける人権侵害と国際人権レジームの関与」(坂口安紀)のあと、最後に「終章 国際人権レジームのラテンアメリカにおける影響」(宇佐見)が論じられる。

ラテンアメリカの人権問題に関して序章の冒頭で、LGBTなど多様性をめぐる制度が拡大傾向にあるが、従来から存在する多大の問題群は未解決だとの指摘がなされる。この点から本書における社会的脆弱者の対象をみると、先住民が多く取り上げられ、対象国はメキシコとペルーが多い。そのため、対象とする社会的脆弱者や国の多様性も拡大すると、ラテンアメリカの状況をより理解できるのではと感じた。このような一読者の感想はあるが、国際的なレジームの影響を大きく受ける人権問題は、21世紀のラテンアメリカ社会を特徴付けるものである。その理解を深めてくれる本書は、ラテンアメリカの人権問題や社会に関心ある者にとって必読の書だといえる。

 
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