ラテンアメリカ・レポート
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山本昭代 著 『ナルコ回廊をゆく―メキシコ麻薬戦争を生きる人々』
村井 友子
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2024 年 41 巻 2 号 p. 76

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メキシコの麻薬戦争は、当時勢力を拡大し社会問題化していた麻薬密輸組織を撲滅するため、2006年12月、大統領就任直後のカルデロン大統領が「対麻薬密輸戦争」を宣言したことに始まる。政府の意に反し、麻薬カルテルの抗争は収束するどころかさらに激化・拡大し、多くの一般市民が犠牲になる結果を生んだ。筆者山本は、シナロア、ベラクルス,シウダー・ファレス、ミチョアカン、コワウィラ、チワワ、ゲレロ、メキシコシティの麻薬カルテルが支配する街に12年以上の歳月をかけて日本から足を運び、カルテルの抗争や犯罪に巻き込まれた人々の取材を続けてきた。本書は、人類学者でもある筆者渾身のルポルタージュである。

犯罪組織が暗躍し、政府・軍・警察が麻薬カルテルと複雑な利害関係を持つ街で、恐怖と悲しみを乗り超えて連帯し、行方不明になった家族を探すため、秘密墓地の発掘を続ける女性たち。カルテルから家族を守るため、自警団を地域コミュニティで組織してたたかう人々。2014年の事件発生以来、真相が二転三転してきたゲレロ州のアヨティナパ事件の犠牲者の家族や関係者など。筆者は、麻薬戦争の渦中にある人々に寄り添いながら取材し、事件の背景を考察していく。本書は、複雑な社会構造のなかで起きた深刻な人権侵害事件の真相究明と事態解決を希求する人々の活動と生の声を伝え、麻薬戦争というメキシコ最悪の社会問題に迫る。

メキシコで悲惨な暴力のスパイラルが始まってから17年の歳月が経つが、今のところ事態が収束する兆しはない。筆者は、メキシコの麻薬戦争を考えるにあたり、以下の4つのポイントを挙げている。麻薬問題は、第一に国際問題であり、世界最大の麻薬消費国アメリカ合衆国と国境を接するメキシコの地政学的位置づけが悲劇の根源になっていること。第二に、不処罰の源泉となる賄賂と汚職の根深い社会構造があること。第三に、抗争を劇化させる武器の製造と販売を担う業者が存在すること。第四に、組織の資金調達を容易にする資金洗浄の問題があること、である。

メキシコの麻薬戦争で、過酷な人権侵害が発生し続けている現実を日本の読者に伝え、知ってもらいたい。世界中の多くの人々の目がこの問題に注がれることで少しでも暴力や不正の抑止につなげていたい、という筆者の願いでエピローグは結ばれている。最後に、本書の多くは、NGO「日本ラテンアメリカ協力ネットワーク」(RECOM)の会報誌『そんりさ』において、筆者が執筆した記事を加筆修正したものであることを記す。

 
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