本稿は、2024年に本格化したメキシコの憲法改正論議について司法制度改革に着目し、その起源、政治過程、そして帰結を詳細に分析したうえで、メキシコの民主主義への含意について考察する。2024年6月に実施された連邦選挙では、AMLOが「第4の変革」を実現するための憲法改正が最大の争点となった。選挙期間中、憲法改正を支持する勢力と反対する勢力の間で激しい対立が繰り広げられ、メキシコ社会に大きな分断をもたらした。選挙の結果、与党「国民再生運動」(Morena)候補であり、AMLOの側近として知られるシェインバウムが圧勝した。また、同選挙の結果、連邦議会上下両院で与党連合が憲法改正に必要な特別多数(3分の2以上)を獲得する見通しが立ったことから、裁判官の公選制導入を柱とする司法制度改革が急速に進められた。この動きに対して、改革に反対する司法府職員によるストライキが発生し、大学生を中心とする抗議運動が全国規模で広がったものの、10月の新政権発足前には司法制度改革が実現するに至った。一方、憲法改正に反対する勢力は、この改革が司法府による行政府へのチェック機能を弱め、民主主義の後退を導くと批判している。しかし、民主主義に関する指標を見ると、AMLO政権下では自由で公正な選挙やチェック・アンド・バランスの水準が低下した一方で、市民の政治参加のレベルは向上した。この点を考慮すると、メキシコにおいて民主主義が後退していると結論付けるのは時期尚早である。