2025 年 42 巻 1 号 p. 61-76
近年悪化するラテンアメリカの治安問題を背景に、本稿ではエクアドルの現状を通じてその実態を検討する。エクアドルでは、コロナ禍後のコカイン市場の活況が同国を国際麻薬密輸のハブに変え、政治・経済・社会に深刻な影響を及ぼしている。この現況は、国家統治能力の低下、歴代政権の失策、コロナ禍による社会経済的打撃、そして「コロンビア和平合意」が複雑に絡み合う結果として生じた。またこの事例は、治安や暴力犯罪にまつわる政治についての既存の研究で提起された多様な論点(「鉄拳政策」の実効性、拘禁制度、汚職や癒着、海外移民、自警団など)を具体的な事象を通じて理解する上で示唆に富む。