ラテンアメリカ・レポート
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資料紹介
丸山浩明 著 『アマゾン五〇〇年―植民と開発をめぐる相剋』
西藤 憲佑
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2025 年 42 巻 1 号 p. 94

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世界各国はどのようにアマゾンの開発に関わってきたのか。本書はアマゾンの開発史をグローバルな視点から紐解くものである。著者の言葉を借りるならば、アマゾンは「人跡未踏の静謐な秘境」ではなく、実のところ「豊かな国際性」に帯びた地域で、欧米諸国、さらには日本の思惑が交錯する国際的な場であった。本書を読み終えると、アマゾンの開発がブラジルに限らず、様々な国の利害のもとで進められてきたと理解できるだろう。

本書の基本的な構成は、アマゾンの開発史を植民地期以前から時系列に並べたものになるが、特に天然ゴムをめぐる歴史に主眼が置かれる。その理由は、天然ゴムの原産地がアマゾンで、ゴムの調達元として重要な地域だった、ということにほかならない。世界各国は自動車や軍需品のためにゴム獲得を目指し、アマゾンに赴くことになったのである。

簡単に各章を見ていくと、序章ではアマゾン独特の自然環境とそれに適応した先住民の生活が紹介され、続いて第1章では、ポルトガルのアマゾン入植から、ブラジル独立時におけるアマゾンでの混乱までが記述される。第2章では、これまであまり語られてこなかった、南北戦争前後のアメリカによるアマゾンへの植民計画に光が当てられる。そして、第3章から第5章にかけて、天然ゴムをめぐり世界各国がアマゾン開発に関与する様子が明らかにされる。19世紀後半から20世紀初頭にかけてゴムブームが起きたわけだが、そのブームの裏側で、ブラジルと隣国ボリビアがアマゾンの境界で対立したほか、イギリスがゴム市場独占のため、アマゾンからゴムを東南アジアに持ち出した(第3章)。また、アメリカのフォード社や出稼ぎ目的の日本人もアマゾンでのゴム生産に携わっていた(第4章)。第二次世界大戦に入ると、アメリカがアマゾンからゴムを調達するためにブラジルとの協力を深めた一方で、アマゾンで働いていた日系移民は敵国の外国人として強制収容されることにもなった(第5章)。最後に終章では、アマゾン先住民の人権や森林破壊といった現代的な問題が扱われ、アマゾンが今なお国際社会と密接に結びついた場として存在し続けているとまとめられる。

上記の内容は、ブラジルやアマゾンのことを学ぶ人にのみ裨益するものではない。本書の強みの一つは、アマゾンという一つの地域に焦点が絞られながらも、欧米諸国や日本、ブラジルの国際関係、日本の外交史、移民史の全体像が見えてくるところにある。すなわち本書は、国際関係や日本の外交、移民に関する歴史に興味がある人にとっても示唆に富んでいる。新書という形で読みやすいものであるからこそ、ぜひ手に取ってみることをおすすめする。

 
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