アルゼンチンはほかのラテンアメリカ諸国に比べて治安がよいとされるが、窃盗の増加や麻薬組織の活動により市民の体感不安は高まり、治安改善は重要な政治的課題の1つになってきた。2023年に就任したミレイ大統領は、その課題を解決すべく治安政策に注力してきたが、彼が極右と呼ばれるように、その政策アプローチは厳罰化に傾く。このことを受けて、本稿では、ミレイ政権が厳罰化をどのように語り、どのように取り組んできたかを明らかにする。第1に、ミレイ大統領による厳罰化のレトリックには、厳罰化の方針を掲げるだけでなく、彼の野党批判や自由市場経済を重んじる政策姿勢が反映されており、厳罰化の必要性が多面的に語られている。第2に、レトリックにとどまることなく、軍の国内治安への介入やデモ活動の制限といった厳罰化の法制度も積極的に推進されており、厳罰化に向けた新たな制度整備が浮かび上がる。昨今ラテンアメリカでみられる厳罰化の流れのなかで、このようなミレイ政権の事例は厳罰化の背景や制度について示唆に富むものである。