蝶と蛾
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紀伊半島の3地点におけるアサギマダラの季節消長
平井 規央石井 実
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1997 年 48 巻 4 号 p. 223-233

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抄録

アサギマダラPrantica sitaを15,20,25℃の12時間および16時間日長の6条件で飼育したところ,卵,幼虫,蛹のどの発育段階でも休眠は認められず,25,20,15℃における平均卵期間はそれぞれ,約5,7,12日,同様に平均幼虫期間は約18,23,40日,平均蛹期間は約10,15,27日であった.また,飼育実験により得られた雌成虫は,25℃でも羽化後半数の個体が成熟卵を持つようになるまで,2週間前後を要した.さらに野外での本種の季節消長を知るために,海岸線近くの生息地として江須崎(和歌山県すさみ町,標高約20m),低山地の生息地として山田(和歌山県橋本市,標高約360m),および高山の生息地として和佐又山(奈良県上北山村,調査地点の標高約1,100m)の紀伊半島に位置する3地点を選び,卵,幼虫,蛹,成虫の密度調査をおこなった.その結果,江須崎は主として本種の越冬地として利用されており,冬季には多数の幼虫が見られたが,夏期には本種の卵-蛹が見られない時期があった.山田では,越冬世代の他,夏の間も少ないながら卵,幼虫,蛹が確認された.両調査地ともに,10-11月に卵が増加したが,密度は江須崎の方が高かった.和佐又山では,6月から9月にかけて成虫が見られ,7-8月にピークが認められた.また,持ち込んだキジョランには卵と3齢幼虫が,自生の落葉性のイケマ(ガガイモ科)でも卵および3齢以下の若齢幼虫がそれぞれ認められた.飼育結果と気温から,各調査地での本種の世代数を推定したところ,春から秋にかけての世代数は実際の野外調査の結果と完全には合致しなかった.これは本種の高い移動性によるものと考えられる.

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© 1997 日本鱗翅学会
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