哺乳類科学
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原著論文
山梨県におけるイノシシの果樹園·放棄果樹園の利用
上田 弘則姜 兆文
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2004 年 44 巻 1 号 p. 25-33

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抄録

近年中山間地域でイノシシの個体数の増加や分布拡大に伴い農作物被害が深刻化している.このような地域ではイノシシが農耕地や耕作放棄地を頻繁に利用していることが予想される.しかし,これまでのところイノシシが農耕地や耕作放棄地をいつどのように利用しているのか不明である.そこで,山梨県一宮町の放棄果樹園1カ所と果樹園2カ所(モモ園,スモモ·モモ園)に自動撮影カメラを設置してイノシシの出没時期·出没時間帯について2001年6月から12月まで調査を行った.6~8月にかけてイノシシによってスモモとモモの枝が折られて,果実が採食された.出没時期のピークは果実の成熟期とほぼ一致しており,放棄果樹園では6~8月に,果樹園では8月にイノシシが頻繁に出没した.枝を折られた果樹の本数割合,果実の成熟期における出没日数および一日あたりの出没頻度は,放棄果樹園で果樹園に比べて高い傾向が見られた.以上のことから,放棄果樹園の利用頻度が近接する果樹園よりも高いことが示唆された.いずれの試験地でもイノシシの出没頻度は日没前の18:00台には少なく,日没後の19:00台に急増した.一方,日出後の5:00台には出没が確認されなかった.このことからイノシシの出没パターンが日出日入と関連があり,農作業に伴う人間活動の影響を受けている可能性が示された.また,各日でイノシシが最初に出没した時間は放棄果樹園よりも果樹園で遅かった.これは果樹園では放棄果樹園よりも農作業などで人の出入りが多いことが影響しているためであると考えられる.

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© 2004 日本哺乳類学会
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