2012 年 52 巻 1 号 p. 23-40
レッサーパンダAilurus fulgensはジャイアントパンダと共に食肉目Carnivoraの中で高度な草食適応を果たした種である.1825年の分類学的記載以来,約190年もの間,他の食肉類との進化的類縁関係は謎であった.本総説ではレッサーパンダの進化的由来に関するこれまでの分子系統学的研究を振り返り最新の知見を提供する.近年の主に核遺伝子を利用した分子系統学的研究においては,レッサーパンダはイタチ上科Musteloideaの主要な系統であり,イタチ科Mustelidaeとアライグマ科Procyonidaeから構成される系統に近縁であることが強く支持されている.また,分岐年代推定によりレッサーパンダの系統の起源は約3,000万年前にあると推定された.さらに生物地理学的解析により,その起源はアジアにあることが示唆された.レッサーパンダの系統分化は始新世から漸新世にかけての大規模な地球環境変動の影響を受けたと考えられる.