哺乳類科学
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原著論文
東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う避難指示区域北部の農地周辺において避難指示がイノシシの出現に及ぼした影響
藤本 竜輔光永 貴之竹内 正彦
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2015 年 55 巻 2 号 p. 145-154

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抄録

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う避難指示区域の営農再開において,深刻な獣害の発生が懸念されている.そこで当該地域の農地周辺において野生動物出没状況のモニタリング調査を実施した.また,避難指示がイノシシSus scrofaの出現の頻度および時間帯に及ぼした影響を評価し,求められる農業被害対策について検討した.調査は2013年8月~2014年7月に実施した.調査地として10地点(避難指示区域内7,区域外3)を設け,各地点の3つの環境(水稲栽培水田,水田に近接する藪および近接する林縁)において自動撮影カメラを1台ずつ稼動させた.調査地からは42種類の野生動物が確認された.出現頻度が最も高かったのはイノシシの31%であった.本種の農地周辺への出現状況に避難指示が及ぼした影響は,出現頻度に対しては顕著な効果が認められなかった.一方で出現時間帯に対しては,人間活動が低下したことによる明るい時間帯への変化が認められた.当該地域の農業被害リスクが増加する図式は全国の他の地域と同じであり,営農再開に向けて求められる対策は,一般的な環境整備と被害防除を主体とした総合対策と,この推進のための体制整備の徹底であると考えられた.

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© 2015 日本哺乳類学会
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