哺乳類科学
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特集『IWMC2015』
シカと森林の持続的な管理に向けて―赤谷プロジェクトと占冠村の事例―
明石 信廣長池 卓男
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2016 年 56 巻 2 号 p. 225-231

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抄録

シカと森林の持続的な管理にむけた提言をまとめることを目的として,第5回国際野生動物管理学術会議においてラウンドテーブルを開催した.生物多様性の復元と持続的な地域づくりをめざす赤谷プロジェクト(群馬県)及び村内全域を猟区に設定して食肉利用も含む管理をすすめる占冠村(北海道)の事例,周辺農地や森林内での被害対策としてシカ対策を検討している三井物産社有林の現状について報告を受け,森林所有者,市町村,研究機関などの多様な関係者の協力による持続的なシカ管理システムの構築に向けて議論を行った.日本では,シカなどの野生生物の管理において,土地所有者,地方自治体,国などの責任や役割が明確になっていない.そのため,(1)関係機関の役割分担と連携体制の確保,(2)シカ捕獲の担い手の確保,(3)シカ管理の財源の確保,の3つを主な課題として指摘した.広域の森林を移動するシカが地域社会に引き起こす多様な課題に対応するには,市町村が中心となって,森林所有者や都道府県,国とともに明確な役割分担のもとで,対策をすすめる必要がある.そのためには,市町村での人材確保が必要であり,国や都道府県には人材育成や周辺市町村との連携をすすめるための取り組みが求められる.森林所有者は狩猟環境の整備などに積極的に協力する必要がある.シカ管理による森林の多面的機能の維持などの多様な利益を評価することにより,持続的な公的資金を確保することが望まれる.

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© 2016 日本哺乳類学会
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