2017 年 57 巻 1 号 p. 119-134
明治初年,日本の動物学は来日した外国人教師の下で,ようやく近代的な様相を帯び始めたころだった.哺乳類を専門とする研究者はまだおらず,現在の東京大学を中心とする学者たちによって世界の哺乳類に関する知見が紹介され始めた.帝国大学と東京動物学会の成立により,『動物学雑誌』の発行が開始されると,帝国大学動物学教室の飯島 魁や国立科学博物館の前身である教育博物館の波江元吉といった人物が,哺乳類に関する記事を掲載し始め,やがて20世紀を迎えると青木文一郎や阿部余四男といった昭和初期に日本の哺乳類学を形成していく人物が登場し始める.また,この間には欧米から来日した外国人たちにより,日本の哺乳類標本が海外に送られ,その地の研究者によって調査されて日本の哺乳類相に関する研究が活発化した時代でもあった.本稿は,この明治から日本で初めて哺乳類を専門とする学術団体である「日本哺乳動物学会」の1923年設立にかけて活躍した人物とその業績についてまとめ,すでに100年を経て忘れ去られようとしている哺乳類学の黎明期に起こった出来事を記録にとどめるものである.